複雑・ファジー小説

Re: グランディオーツストーリー【クレイグ士官学院リメイク】 ( No.1 )
日時: 2014/08/10 09:18
名前: 凡 ◆IBmmrNHoC. (ID: gOBbXtG8)

 帝都近郊の線路を、"トラエスタ"行き帝国列車が走る。
 青のカラーリングがなされたその列車には、真新しい赤の制服に身を包んだ青年"ロイ・セレスティア"が乗っていた。
 列車を乗り継ぐこと、かれこれ4時間が経過している。しかし特に彼は疲れを見せていない。
 何故ならロイは、これから催される"クレイグ士官学院"の入学式に参加するのだから。
 ハードルの高い試験を乗り越え、ライバルを出し抜いてようやく入学できた士官高等学校"クレイグ"。
 彼は胸を躍らせていた。故にこの程度の列車旅でつかれるはずがない。

『へぇ、メノウの花か』

 新春、トラエスタではメノウの花が咲き乱れていた。
 極東の島国に咲く"サクラ"と似たような樹木で、小さく可憐な白い花を沢山つけることで有名。
 花言葉は"平和"であり、戦火とは無縁のこのトラエスタにはぴったりの花である。
 そんなメノウ並木を、ロイは列車の中から物珍しそうに眺めていた。
 ロイも話に聞いていた程度のメノウだが、実際に目の当たりにするととても美しい。

 気候上、ロイの故郷"シャルディ地方"ではメノウが育たない。
 その代わりに、メノウと似て非なる"ポリー"が冬に咲き乱れる。
 ポリーは青く大きな花を咲かせる樹木の花。淡く発光することでも有名で、夜に見るととても幻想的である。
 "縁結び"という花言葉があるり、薔薇に次いでよくプロポーズで使われたりする。

 ロイがポリーとメノウの形を重ねていると、列車内にアナウンスが流れた。

「————間もなく、トラエスタ。お出口は右側です』
『っと、もう到着か』

 ロイは荷物と地図を片手に、下車準備を始めた。


   ◇  ◇  ◇


 下車して駅を出ると、ふんわりとした優しい香りがロイの鼻を擽った。
 正体はメノウ。春風と相俟って、彼はそれに気をとられて歩みを止める。
 見ればすぐそこにはメノウ並木があり、散った花弁が風に舞って情緒ある光景を描いている。
 飾ることなく、美しいという言葉をそのまま表したようである。

 彼にしたらもう少しメノウを堪能したいところだが、いつまでも呆けている訳にはいかない。
 一流の学校に合格しておきながら、入学早々式に遅れるという小恥ずかしいミスは避けたいところだ。
 ロイはメノウ並木を通り、早足に士官学院を目指した。