複雑・ファジー小説

Re: グランディオーツストーリー【クレイグ士官学院リメイク】 ( No.3 )
日時: 2014/08/11 08:32
名前: 凡 ◆IBmmrNHoC. (ID: gOBbXtG8)

 その後アリアが告げたことは、俄に信じ難いものであった。
 絶対に何か、裏で謀略の糸が張り巡らされているに違いない。そんな内容であった。
 曰く、赤い制服を着た生徒は、貴族や平民に何ら関係なく作られたクラス"0組"であるとの事。
 曰く、0組に所属する生徒は皆、今年から新しく士官学院に取り入れられた教育方針の実験対象になるとの事。
 曰く、参加するか否かはこれからのオリエンテーションを通してから自由に決めることが出来るとの事。

「具体的にどんな教育方針なのかって言うのは、ネタバレになっちゃうから伏せておくけどね」
「なるほど」

 金髪の男子生徒も、一応頭では理解できたらしい。
 しかし、現実味が無いのは事実である。貴族クラスも平民クラスも、1クラスにつき絶対20人は生徒がいる。
 対してこの0組は、現時点では6人しかいない。非常に少数だ。

「まあ、百聞は一見に如かずって言うから、実際にオリエンテーションを始めましょう。ついてきなさい」

 そういってアリアは踵を返し、足を講堂の出入り口へ向けた。
 皆はとりあえず、彼女の後を追いかけることに。


   ◇  ◇  ◇


 皆がアリアに連れて来られた場所は、クレイグ士官学院の敷地にある建物。
 というよりは遺跡と言った風貌を漂わせており、僅かに水流の音が入り口から響いてくる。
 何故こんなものが学院の敷地内にあるのか、皆はまた疑問を抱く羽目になった。
 見た感じではかなり古いので、態々この0組のために設立されたとは考えにくい。

「ここよ。まあとりあえず中に入りなさい」

 アリアは皆を遺跡内へ誘導する。
 中にはランタンがいくつも壁に吊るされていて、思っていたよりも明るかった。
 最初に入ったさきには大きな広間みたいなものがあり、胡散臭い台座が6つ、誇らしげに並んでいた。
 台座の上には武器と、何やらこれまた怪しげな腕輪が佇むように設置されている。

「ここに台座があるでしょう? 自分の名前が書かれたプレートがあるから、それを見て自分の台座の前に着きなさい」

 皆は指示されたとおりに動きだす。
 遺跡の内部はかなり広く、声が反響するほどではないようだ。

「ロイ、こっちだ」
「あぁ、ありがとう」

 ふとパスカルが、ロイを手招きした。
 自分の台座の隣に、彼の台座があったらしい。
 彼らのそのやり取りを、一瞬でも皆は興味深げに眺めていた。
 アリアが2人に近付く。

「君たち、知り合いなの?」
「いえ、さっきちょっと話し合った仲でして」
「ふうん。ま、早速仲がいいようで何よりよ」

 アリアは微笑んで、その場を去る。
 ロイとパスカルはお互いに顔を見合わせ、首を傾げるだけであった。

「はいはい、聞きなさい」

 手を叩く音がする。

「腕輪が自分の台座にあるでしょう? 各自、腕に嵌めること」

 言われたとおり、皆は腕輪を手にとって腕に嵌めた。
 個人でサイズが調整されているのか、嵌め心地はピッタリだ。
 不意に、腕輪が輝きだす。

「は?」
「え?」

 何だ何だ。そんな声が、皆の口から漏れた。

 皆が嵌めた腕輪は、碧く淡い光を放っている。
 放ったかと思えば今度は、同じ色の軌跡が現れて皆の腕輪と繋がった。
 リンク。その言葉が最もよく当てはまるだろう。
 しばらく繋がり続けた碧い光の線は、一定間隔ごとに複数回光を強めたり弱めたりして、そして消えた。
 同時に、腕輪自体が放っていた光も消える。
 一体なんだったのだろう。皆が目を見合わせていると、アリアが何やらご満悦な表情を浮かべた。

「うんうん、テストは成功ねっ」
「オリエンテーションって、これだけですか?」

 ロイが問うた。
 しかし、まだオリエンテーションは始まっていないらしい。

「じゃあ、これからオリエンテーション本番といこうかしらね〜」

 するとアリアは、不意打ちよろしくその場から消え去った。
 正確に言えば、ありえない速度のステップで遺跡内から出入り口へと脱出した、である。
 その間、僅か1秒。皆が呆気にとられている間に、彼女はその場から神速で立ち去ったのだ。
 流石は士官学院の教官か。そう感心している生徒もいたようだが、何か嫌な予感がしたらしいロイが突然走り出した。

「ろ、ロイ?」

 パスカルの呼びかけにも応えずに。

「アリア教官!」

 ロイはアリアの名を呼びながら、出入り口を目指して全力疾走を始めた。
 皆はそんな彼の態度に、少しだけ驚いたような表情を浮かべる。

 ふと、出入り口の扉が閉まる音がした。

「!?」
「間に合わなかったか……」

 ロイの後を追って、皆も出入り口までやってきた。
 だがロイが来た時には既に扉が閉まっていたらしく、皆は遺跡内に閉じ込められた形になった。
 その扉は何をしてもびくともしない。よほど強固な素材で出来ているのだろう。

「アリア教官は、一体何を考えていらっしゃるのでしょうか……」

 今まで口を開かなかった女子生徒が口を開いた。
 穏やかで、とても儚い声である。
 しかし、その問いに答えるものは誰一人としていなかった。

 ————流れる沈黙が重い。

「あぁ、そういうことか」

 ふと、軽薄そうな1人の男子生徒が口を開いた。
 皆の視線がそちらに集中する。

「アリア教官のオリエンテーションって、この遺跡から脱出することなんじゃないか?」

 あぁ、なるほど。
 意外に単純だった答えではあるが、皆の声が揃った。