複雑・ファジー小説
- Re: わかりあうための闘い【感想大歓迎!】 ( No.183 )
- 日時: 2014/09/15 06:54
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
ベリーsid
あたしは7階のリングに上がり、会長の言う最も危険な能力者であるディナーと対峙した。
彼はフレンチをそのまま小さくしたような雰囲気で、大きな金色の鈴のついたスカーフに茶色のチョッキを身に着けており、なかなか可愛らしい。
試合開始のゴングが鳴ると同時に、あたしは大鎌で彼を強襲した。
しかし彼は驚いたことに、振った鎌の刃元の部分に立っていたのだ。
「えへへ、残念でした♪」
彼は無邪気に笑うと、大鎌から飛び降り間合いを取る。
「おねえちゃんの鎌カッコいいね!」
「……そう」
「じゃあ、今度は僕から行くねー!」
猛スピードで接近したかと思うと、あたしの頬に強烈なパンチを炸裂させた。
その威力に少し後退してしまい、相手を睨む。
「うう…そんな怖い顔しないでよう」
彼は眉をハの字にして今にも泣きそうな顔をする。
けれど、あたしはそれが演技だと言うことをわかっていたので、容赦せずに鎌を振り回す。
「すごいねおねえちゃん。僕の演技を見抜くなんて」
「…簡単」
「でも、この技は脱出できないでしょー?」
彼は飛び上がって背後に回ると、あたしの首を両足で締め上げつつ、さらに両腕をチキンウィングに捉えて痛めつけ始めた。
これは確かフレンチが使っていた名称不明の地獄の拷問技だ。
かなりの痛みの中でどうにかして脱出できないかと策を練る。
すると、突然頭の中にピカリンとアイディアが閃いた。
痛みに耐えながらもコーナーポストまで歩いていき、少しジャンプしてコーナーを蹴り、反動で彼をマットへ押し付けた。
その隙に彼をボストンクラブをかける。
「…痛かったらギブアップしなさい」
「ヤダ!痛くないもん!」
「…本当に?」
「ほんとだもん!」
「…強情な子。このまま背骨を折るわ」
あたしは腕に力を込めて彼の背骨をヘシ折ろうとするが、なんと彼は腕の力だけでボストンクラブをかけられたまま逆立ち状態となり、そのまま腕の力だけでジャンプするという超人的な身体能力を見せつけ、セントーンであたしをマットへ叩きつけた。
「……なかなかやるじゃない」
「えへへ、でしょでしょ。僕強いもん!」
彼は胸を張ってドヤ顔をする。
その仕草がなかなか可愛らしいなと思いつつ、試合に情はいらないと考え非情に徹し、彼に思いっきり掌底を放つ。
掌底は一撃一撃の威力こそ低いものの、パンチより命中率が高く何発も当たればかなりのダメージになることを先の闘いで学んでいた。
掌底は面白いように次々にヒットし、彼の口から血が吹き出し顔が腫れ上がり始める。
この調子で攻め続ければ勝利は目前。そう確信したそのときだった。
彼がバック転で間合いを取った。そしてあたしに微笑みかける。
「……何がおかしいの?」
「僕の胃袋の恐ろしさを教えてあげるよ!」
「……えっ?」
その刹那、彼のスカーフについている鈴がチリンチリンと鳴り始めた。
「いっただっきまーす!」
彼の能力、消化吸収。
それはあらゆるものを吸収するブラックホールの如き吸引力で、何でも吸い込み強靱な胃袋の力で消化してしまう、まさに一撃必殺の魔の能力。
けれど、あたしは昨日彼の能力の弱点をヨハネスから聞いてその対策は考えてあった。
すると案の定、彼は突然おなかを押さえてマットをゴロゴロと転がり始めた。
「おなかが痛いよう!」
彼は少し顔ざめた顔でわたしを見つめた後、口からあたしのうさぎちゃんを吐き出した。
観客席からわあっと歓声が上がる。
あたしは吸い込まれる直前にうさちゃんを身代わりにして、彼の背後に回りこんだ。
彼の能力は正面の攻撃は最強だが、背後を攻撃されることに対して弱いと言うことを会長から聞かされていた。
彼の能力は破った。今度はあたしの番!
自分の肩の上に相手を仰向けに乗せた後、顎と太腿を掴み、自分の首を支点として相手の体を弓なりに反らせるアルゼンチンバックブリーカーを彼にしかけ、思い切り背骨を反らすと、彼はついにギブアップを口にした。
これで連合軍の3勝目が決まった。
「正面に気を取られ過ぎて背後を見ることを怠っていた…それがあなたの敗因」
あたしはいい勝負ができたお礼として彼にアドバイスをした後、悠々とリングを去った。
やはり、正々堂々互いの技と能力を出し切った試合は本当に素晴らしいものだと改めて実感した。