複雑・ファジー小説
- Re: わかりあうための闘い【奇跡の復活!】 ( No.192 )
- 日時: 2014/09/19 18:03
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
柊紅葉sid
俺は小さい頃から、何のとりえもない人間だった。
学校に行けば顔立ちと名前のせいで「女子」と男子にからかわれ、女子からは「根暗」と陰口を叩かれ、運動は不得意で成績は中の下。
そんな俺に生きる希望をくれたのが、スター会長だった。
彼はやさぐれている俺の前に現れて、こんな事を言った。
「きみ、いい脚しているねぇ。どうかな、この足を生かして格闘技をやってみては?」
最初は格闘技なんてやったこともないし、俺にそんな事できるわけがないと思ったが、彼の教えの成果もあって、俺はメキメキと実力をつけていき、ついには高校生キックボクシングの大会で優勝するまでの腕前をつけることができた。
その時からだ、何のとりえもなかった俺に「蹴り」という誰にも譲りたくない取り柄ができたのは。
そして今回俺は会長の恩を返すために、彼の召集に応じた。
彼に教えてもらった恩…この試合で必ず返して見せる!
だが、現実はどうだろうか。
今、俺は敵の斬撃と必殺技を食らって、足も痛めつけられた上に、こうして惨めに倒れ伏しているじゃないか…
これでは、会長に顔を合わす事ができない。
「クロロロロロロ。やはりこの闘いはこの拙者に分があったようだな〜ッ!柊紅葉とやらよ、おとなしくこのまま昇天するがいいーっ!」
敵が俺に止めのニードロップを放つ。
…終わったな…
俺は潔く敵に葬られようと目を閉じた。
ごめん、俺勝てなかったよ…
「まだ試合は終わっていないぞ!」
不意に強い声がした。
その声に反応し、体が動いたため間一髪で彼の放ったニードロップを回避することができた。
声の主はスター=レスリングジム3大教官のひとりである、カイザーさんだった。
「よく聞くんだ、紅葉くん。諦めない限り試合は終わりじゃない。例えどんなにボロボロになろうが、闘うガッツさえあれば逆転は可能だ!会長に見せてやるんだ、きみがどれだけ成長したかを!」
彼はエルボーで不動さんの顔面を穿ちながら、俺にそう言った。
諦めない限り逆転は可能…その言葉に半ば折れかけ、諦めかけていた俺の闘志が再びメラメラと燃え上がった。
全身全霊の力を振り絞って立ちあがり、敵と対峙する。
「そんなズタボロの体で何ができると言うのだ。そなたはもう拙者に殺されるだけしか道は残されていないのだよ!」
「まだだ…まだ俺は奥の手を披露していない…!」
「フン。往生際の悪い男だ。更なる痛みを味わう前に死んだほうがよかったものを」
彼は拳を振り上げるが、俺はそれを先ほどまで激痛で立っている事さえままならなかった足で受け止め、彼の顎にサマーソルトキックで反撃にでる。
燃え盛る闘志の前で痛みなど感じないに等しかった。
「食らえ、これが俺が最初で最後に見せる大技…」
彼の背後に回り込み、腰の掴んで足のバネで飛び上がり、そのまま場外へ落下していく。
そして床に激突する寸前、起死回生の大技を炸裂させた。
「バックドロップ!」
己の全ての力を使い果たして、俺は大の字に倒れ込む。
敵は今だ動かない。リングアウトを告げるカウントが数えられる。
「ワン…ツー、スリー、フォー、ファイブ…」
そのままカウントが20まで数えられるかと思ったその時、敵はカウント15で立ち上がってきた。
「そなたの技、敵ながら天晴…だが、最後に勝利を握るのはこの拙者なのだ…」
カウント18でリングのロープに手をかけたその刹那、
「カ…カラアゲハァ〜ッ!」
彼は独特の断末魔を上げ、口から吐血するとそのまま背後にゆっくりと倒れた。
「トゥエンティ!」
そこでついに20を告げるカウントが数えられ、俺は勝つことこそできなかったものの、敵との相打ちに持ち込むことができた。
「素晴らしい!実に素晴らしい試合だったよ。よくやってくれたね、紅葉くん!きみは私の自慢の弟子だよ!」
薄れゆく意識と閉じてゆく瞼の中で、俺は会長から褒められたような気がした。