複雑・ファジー小説

Re: わかりあうための闘い ( No.28 )
日時: 2014/08/27 06:00
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

ナーニャsid

「どうした?その程度の攻撃か?悪いけど、俺にはてめぇの攻撃なんざぜんっぜん効いてねんぇんだよ!」

彼は倒れているあたしを、これでもかとばかりに踏みつける。

何が何でも勝利して見せると気合を入れたこの一戦、あたしには決して負けることができないこの闘い。

けれど、言葉とは裏腹に敵の猛攻の前に防戦一方だった。

そもそも、あたしはプロレスなんて一度もやったことがない素人だ。

しかし、敵はある程度経験があるのか、見たこともないような強力な攻撃であたしに反撃をさせない。

しかも、それだけではなく、敵の能力は相手に対応して攻撃を回避したり、あたしが苦手な打撃などの攻撃を確実にヒットさせていく能力を使い有利に試合を進めていく。

思えば、最初からあたしは不利な立場にいた。

武器が使えないという絶望的状況の中、さっき闘っていたフレンチくんの技を真似てみようと、あたしなりにがんばった。

けれど、彼とあたしは培ってきた経験が違うため、一回二回で当然真似できるわけがなく、そこを敵に突かれ、現在防戦一方になっているという訳だ。

もし、このまま負けてしまったらどうなるんだろう?

また、あたしは零の言いなりに体を乗っ取られてみんなに迷惑をかけるの?そんなの、嫌だよ…

自然と溢れ出る涙が頬を伝い、キャンバスへ落ちる。

キャンバスが濡れるたびに、あたしの心に重い影が落ち、敵の足蹴りやひじ打ちが容赦なくあたしを襲う。

痛い…辛い…でも、負けたくない…!

ここで負けたら零の支配から逃れられなくなる…それだけは、絶対に嫌っ!

「イーハー!」

耳をすますとそんな声が聞こえた。

この声は、最終予選であたしと対決した、運営委員のひとり、ロディさんの声だ。

そう思い、攻撃に耐えながら上を向くと、コーナーポストの横にテンガロンハットに西部開拓時代の保安官の恰好をした彼が笑顔を浮かべて立っていた。

「ロディ…さん…」

「安心しろ、お嬢さん。俺が必ず、あんたを勝利へ導いてやるぜ!俺の心の奥底に流れる、熱きフロンティア精神でな!」

彼はまるで北海道にある「少年よ大志を抱け」で有名なクラーク博士の像のようなポーズを取った。

彼の碧眼はまるで宝石のようにキラキラと輝いている。

彼の輝く瞳を見ているうちに、なんだかあたしの心に光が戻ってきたみたい!

「くだらねぇやり取りだぜ、とっととくたばればいいものを!」

敵はあたしに止めを刺そうと、足を上げ、踏みつけようとした。

「その足を掴め!」

ロディさんの指示にあたしは言われるがままに足を掴む。

「そしてそのまま奴の足を掴んで転倒させる!」

「グオッ!」

足を取られ体勢を崩した彼はいとも簡単に崩れ落ちた。

だが、これぐらいのことでダウンするはずもなく、すぐに腕の力を利用して立ち上がってきた。

そしてロープの反動で跳ね返ってくるとそのまま右腕を伸ばし、あたしでも知っている有名なプロレス技、ラリアートをしかけようとした。

しかし、体が無意識のうちに反応して、かがんで避けていた。

「こんなものは偶然だーっ!」

今度はその足を前に出して蹴り上げようとするが、これも反射的に避けてしまう。

「だったらこいつでどうだ?」

彼はいきなりあたしの服を掴むとそのまま柔道の一本背負いをお見舞いしてくる。

けれども、これも楽に受け身を取って防ぐことができた。

こんな偶然は普通はありえるはずがない。

けれど、あたしの能力『盗みの猫』ならそれも可能だ。

もしかすると無意識のうちに、彼の能力を自分のものにしていたのかもしれない。

…そうだ!あたしにはまだ勝てる望みが失われているわけじゃない!

試合に負けた人たちの能力を少し拝借してしまえば、もしかするとこの勝負、勝てるかもしれない!

次回予告
明かされる安瀬の弱点とは—