複雑・ファジー小説
- Re: わかりあうための闘い ( No.29 )
- 日時: 2014/08/20 12:33
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
安瀬sid
試合開始直後から、俺は優勢に試合を展開していた。
敵は女で、しかもプロレス未経験者。
つまり、力の差がある男であり、プロレスについてある程度学んだことのある俺とは、実力が違う!
敵は初めのうちこそ、殴る蹴るのキックボクシングのような戦法を繰り出していたが、俺の適応する能力の前に徐々に押され初めていった。
まあ、当然と言えば当然だが、なんというか、あまりにあっけない気がする。
まあ、女にしてはよくやったほうだと思うが、到底俺の域には届かない。それほど、俺と彼女の実力差には開きがある。
そしてこれはすぐに埋められるほど簡単なものではない。
敵は俺の猛攻に圧倒され、ついにダウンをした。
正統派レスラーならばここで立ち上がるまで待ってくれるんだろうが、生憎俺はそうはいかない。
敵が倒れたら完全にノックアウトするまで攻撃の手を休めない。
「てめぇの攻撃なんざぜんっぜん効果ねぇんだよ!」
酷い言葉を投げつけ、敵の心を折りにかかる。
肉体と精神の両方にダメージを与え、ギブアップを促せる。
これはプロレスにおいて基本中の基本だと俺は思う。
満身創痍の彼女。さあ、あと少しで俺の勝利が決まる!
ところがそのとき、予想外のことが起きた。
なんと運営委員のひとりであるロディさんが、彼女のセコンドを買って出たのだ。
ロディさんはスター=レスリングジムの会員のひとり、すなわちその道のプロ。
そんな奴がセコンドについて指示を送れば、大苦戦を強いられることは必須だ。それだけは、なんとしても避けなければならない。
「おいあんた、運営委員は常に中立じゃなかったのか?」
俺が訊くと彼はそれを鼻で笑ってこう返した。
「何を言っているんだ?運営委員は基本的に中立だが、最終予選で相手をした奴だけはひいきしてもいいという暗黙の了解があってな」
「バ…バカな…じゃあ、もしそうだとするならば、俺の相手をした奴も俺の側のセコンドについて指示を送れるはずだ!それなのに、なぜ俺のセコンドには誰もいない!?」
「信念がねぇからだろ」
「信念だと?」
「そうだ。俺たち運営委員は自分が相手した奴の信念を見て、セコンドにつくかつかないか決める。最もAブロックの第1回戦は、試合方式が方式なだけに俺たちの出番はなかったが、プロレスとなればそうはいかねぇ。そして俺たちは動かすのは他でもない、出場者の信念。
だが、どうやらお前の対戦相手はお前の信念に動かされなかったようだな」
「ぐ…っ!黙れ!あんたがセコンドにつこうが、俺の勝利は変わらないーッ!」
彼女をカナディアンバックブリーカーに捕え、上昇し回転を加え高速で落下する。
「これが俺の必殺技、スクリューブリーカーだーッ!」
俺の技は完璧に彼女の背骨をヘシ折った…はずだった。
「…どこを見ているの?」
技を決めてから気が付くと、なんと彼女がふたりいたのだ!
「さっきの闘いで、ルナクティスさんが使用していたダーミフェイクを使わせてもらったの」
ダミーフェイクは闇の力で分身を作り出す能力…つまり技がかかる前に分身と入れ替わったというわけか。
「…そういうこと。今度はこっちの反撃、カーズ!」