複雑・ファジー小説
- Re: わかりあうための闘い ( No.46 )
- 日時: 2014/08/17 15:39
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
カイザーsid
テレビで彼らの激闘の中継を見ていた私は、ため息をついた。
「彼らは一体なんのために、裏のあるこの大会に参加しているのか……」
現在、私は故郷のフランスで子どもたちと一緒に暮らしている。
私が会長の目を盗んで私の家に避難させることに成功したのは、ハニー、メープル、ラグ、王李、ヨハネス、井吹の6人。
他の子たちは無事だろうか気になるが、ここにいれば間違いなく安心だ。
幸いにして能力者オリンピックが開催されているのは日本だから、ここまで追手がくることはない。
そういう点では安心だった。
だが、それだけに、一刻も早く私の友である彼らを狂気から救ってやりたい気持ちでいっぱいだった。
彼らだって、本当に心の底からそう思って行動しているわけではないというのは、私の目から見れば明白だった。
そしてこのことは、私が救いだした彼らも気づいている。
「考えてみれば、おかしなことだらけなんですよね…あの会長さんが
『人間を見捨てる』なんて言うはずがないですもの」
あごに手を当ててそうつぶやくのは、ドイツ№1の少年名探偵にして会長の元一番弟子であるヨハネス=シュークリームくんだった。
彼はその場をグルグルと歩き回り、今までの出来事を推理し、ひとつの答えを導き出した。
「僕の推理では、会長は知らない間に、何者かにマインドコントロールされていると考えたほうがいいかもしれません」
「そんな…!ご主人様が…」
大きな瞳に涙を浮かべ泣き崩れるのは、会長のことを誰よりも知り尽くしている彼の少年執事である、ランス=アームストロングこと、通称ラグくん。
彼はアンドロイドであるが、姿は人間そのもので、誰よりも繊細な心を持ち、主人のことを心から大切に思っている。
「星野くんがあんなことを言うのも、考えてみれば変ですわね」
少しおっとりした声で言うのは、星野くんのガールフレンドにしてスターレスリングジムの紅一点、メープル=クラシックだ。
普段はおっとりしていて少々天然の癒し系の女の子だが、スターレスリングジムきっての実力者だ。
「あの不動さんや星野が敵になっちまうとはな…クソッ!」
テーブルをバン!と叩き怒りを露わにするのは、我々の中で一番新しい仲間、井吹宗一郎だ。
初心者ながら高い潜在能力と熱き魂で善戦してきた、私の弟子と呼んでも差し支えないほど、大切な少年だ。
「でも、コントロールされるほうもされる方ですよね」
可愛らしい笑みに似合わない毒を吐き、少し離れたところで立っている少年、王李。
中国拳法の使い手で一匹狼気質の彼は、他のメンバーとはだいぶ違う印象を受ける。
性格的にはいわゆるツンデレであるため、かなり井吹くんと衝突が絶えず、よくケンカをしている。
人を怒らせることに関して天下一品なのは、彼の師であるジャドウの影響だろうか。
もっとも敬愛してい師が道を踏み外してきていることに一番ショックを受けているのは、他でもない彼だろう。
「それで、どうするんですか?このまま行くと去年と同じで、また大勢の能力者を犠牲にすることになってしまいますよ」
王李の言葉を聞いた私は、椅子から立ちあがり、今まで渋っていたことをついに宣言した。
「諸君、私に力を貸してほしい。
今命の危機にさらされている能力者たちのためにも、彼らの猛攻を止めに行こう!」
「はいっ!」
「いいぜ…あんたのためなら命だって惜しくはねぇ…」
「星野くん、わたしが必ず救って見せますわ」
「僕も了解いたしました」
「僕もみんなと闘おうねぇ〜♪」
ありがたい返事だ…
やはり、彼らのような存在がいるのだから、地球人には希望があるはずだ!
「おい、お前はどうするんだ?王李」
井吹くんが訊ねると、彼は微笑み、
「…仕方ないですね。今回だけですよ」
「諸君、恐らくこれが私と君たちとで闘う最後の闘いになるだろう…
もし、私が死しても、君たちは決して私の後を追ってはいけない。わかったね」
私は自分の命がこの闘いで失われることになろうと、大切な友と人類の未来のためなら、悔いはない。
「人類の未来のために、友の狂気を止めるために…カイザーチーム出動!」
こうして私たちは彼らの暴走を止めるべく、行動を開始した。