複雑・ファジー小説

Re: わかりあうための闘い ( No.50 )
日時: 2014/08/17 20:16
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

葵sid

Bブロック最後の試合、これで全てのベスト8が出そろう試合。

けれどわたしにとっては、そんなことは関係ないことでした。

わたしがこの大会に参加した理由。

それは、賞金が欲しいわけでも、願いを叶えてもらいたいわけでもありません。

そもそもお金なら我が家にうなるほどありますし、叶えてほしい願いなんてないのです。

大会に参加した理由、それはただ、自分の力がどれほど世界の強豪相手に通用するかという実力試しで参加しただけにすぎないのですが、偶然が偶然を呼び、なんとベスト12(今は16ですか)にまで勝ち残ることができたのです。

ここでまできたら、あとはどんな相手に対しても全力を振り絞って悔いを残さないように闘うだけです!

「ハッ!」

わたしは早速彼に蹴りを放ちますが、彼は熟練した動きでわたしの繰り出す蹴りを次々に避けていきます。

「うん。いい動きだね。スピードもあるし、キレもある。素晴らしいよ」

「驚くのはまだ早いですわ」

彼の腰のあたりを掴み、ジャーマンスープレックスで放り投げ、すかさずフォールを奪いにいきます。

ですが、彼はカウント2でわたしを押しのけ立ち上がると、ボクシングの構えを取りました。

「僕は医者だけど、これでも格闘の腕には自信があるんだ。君は蹴りは得意かもしれないけど、打撃はどうかな?」

「もちろん、大得意ですわ!」

彼のパンチに合わせて片方の手で攻撃を弾き、余ったほうの手でジャブを繰り出します。

けれど、リーチが短いためなかなかヒットしません。

「キックもいいけど、パンチもなかなかいいね。僕みたいな大人でなかったら、きっと君は武術大会とか格闘大会で優勝してもおかしくない腕だよ」

「本当ですか?嬉しいです!」

「でも…ここで勝ち残るのは難しいかもしれないね」

「えっ?」

彼は素早く足払いをかけて転倒させますと、微笑み、

「足がお留守になっているよ。腕と足を交互に使ってバランスよく攻撃することが大切なんだ」

「わかりましたわ!」

わたしは彼のアドバイス通りに手足を交互に使って攻撃を開始します。

「君は物覚えがいいね。もうはや僕の動きについてきているじゃないか。きみはこれからもっと成長するよ」

パンチとキックを上半身をくねらせながら必要最小限度の動きだけで避けていく廉道さん。

「僕はもうおっさんだからね。本当はお兄さんって呼ばれたいけど…だから僕は無駄な動きは一切しない。必要最小限度の動きで体力の消耗を押さえるようにしているんだ。僕の本職はあくまで医者だから、たくさんの患者に迷惑をかけるわけにはいかないからね。だから、なるべく早い時間で決着をつけるんだけど、今回は患者も他の医療班に任せているから、もう少し君との試合を楽しみたいかな」

彼は朗らかな笑みを浮かべると、手刀をお見舞いしてきました。

それを避けると今度は裏拳が飛んできます。

「四方八方、360度どこからでも攻撃できるように、常に神経を張り巡らしていなければいけないよ。こうすることで、敵が攻撃をしてきても瞬時に対応できるからね」

彼はわたしのローリングソパットを受けとめ、そこから逆エビ固めをかけます。

「この技は逆エビ固めと言ってね、どんな変わり身の上手いレスラーも決して逃れられない技だよ。背骨が折れないうちにギブアップしたほうがいいと僕は思うな」

彼はお話をしながらもすごい力で背骨を攻めていきます。

「技は完全にかかって、きみの背骨は弓なりになっている状態だよ」

能力さえ発動できればいいのですが…体が悲鳴を上げて能力を発動することができません…

「どうする?ギブアップするかな?」

「ギブアップ…ですわ…」

今まで闘ったことがないほど強い敵と全力で闘えた嬉しさと痛みに耐えられない悔しさ、まだまだ強くなれる希望を確信したわたしは、潔くギブアップを口にしました。

すると、彼がわたしに手を差し伸べました。

「楽しい試合をありがとう。またいつか闘えるといいね」

「はいっ!」

全力を振り絞って闘った対戦相手の手は、とても優しく温かなものでした。