複雑・ファジー小説
- Re: わかりあうための闘い ( No.71 )
- 日時: 2014/08/18 21:55
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
愁二sid
次は俺とあのおっさんの試合!
俺はフレンチの試合を見て、震えが止まらなくなった。
あんな可愛い顔してあの強さ…ギャップがありすぎだろ!
心の中でツッコミを入れるが、よく考えてみると今から俺と闘うおっさんも、信じられないほどのプロレスの腕を持っているんだ…
この大会に出場して運とまぐれで立ち上がってきた俺も、とうとう敗北の時がやってきたのか。
そう考えると自分が情けないあまり、自然と涙が溢れ出る。
だが、こんな醜態を敵に見られてしまったら、それこそバカにされる。
ここは意地でも元気に振る舞わねば!
そう決意し、俺はおっさんより先にリングへと上がる。
勝つか負けるかのどちらかしかないこの勝負、もし負けるにしても3日前にあのおっさんと闘っていた葵みたいに、全力で闘ってやる!
廉道sid
僕の対戦相手はゴーレムを作り出す能力者の愁二くんか。確か彼は格闘は素人だったはず。
となると、能力で闘うしかないか…あまり自分の能力が好きではない僕は少々不満だったけれど、この勝負は能力で闘おうと決意した。
けれどその前に、ベリーさんの容態を診ることが最優先だ。
早速医務室へと運び込み、容態を診る。
背骨をだいぶ傷めつけられていたため能力を使って直し、他の医療班にこの場は任せると急ぎ足で会場へと向かった。
医師と出場者、ふたつを掛け持ちするのはかなりきつい。
僕が彼に続いてリングに上がると、運命の試合のゴングが鳴らされた。
「ゴーレム!」
彼はやはり初戦と同じようにゴレームを作り出した。
しかし、今回のゴーレムは土でできていた。
「見事な造形だね。君は芸術家にでもなったほうがいいと思うよ」
「そいつは嬉しい褒め言葉だ。ありがとうな、おっさん」
「どういたしまして。でも、本当はお兄さんと呼んでほしいな。君が能力を見せたから、僕も能力をお見せしてあげよう。僕の能力、リバースヒーリングだ」
僕は早速能力を発動し、ゴーレムに触れる…が、なんの変化も起こらない。おかしいな。
もう一度触れてみたけど、結果は同じ。
おかしい、能力の使い過ぎで不調でも起きたんだろうか…
あれこれ推測するけど、原因はまるで不明。
傷をつけていないからだろうか。
そう思って棒立ちで立っているゴーレムを爪でひっかいてほんの少し傷を作る。
よし、これなら大丈夫なはずだ。
「リバースヒーリング!」
けれど、全く変化はない。
今までこんなことは一度としてなかった。おかしい。
なんだか様子がいつもと違う…能力が通用しない!
「どうしたんだ?おっさん」
彼がポカンとした顔で僕を見つめる。
どうやら彼自身もわからない謎らしい。
しかし、これは困ったことになったぞ…
能力が使えなければ僕は格闘でしか闘えない。
武器は持ち込み禁止だし…一体どうしたらいいんだ?
と、そのとき、医療班の医師が必死の形相でリングへ走り寄ってきた。
「先生、大変です!患者が…」
どうやら患者の容態が急変したらしい。
どうしてこのゴーレムに能力が通用しないのかがわからないのが悔しいけど、僕の本業はあくまで医師であり、出場者ではない。
「僕は棄権する!」
それだけ言って足早にリングを去った。
一体なぜあのゴーレムに能力が効かなかったんだ?
愁二sid
『廉道の棄権で、雲仙愁二の不戦勝!』
ありえねぇ。俺自身信じられねぇ、まさかベスト4まで勝ち残っちまうなんて…
それにしても、あのおっさんが、ゴーレムが人工物であることに気づかなかったのは嬉しい誤算だった。
気づいていたら100%俺を標的にして能力を発動されて負けていたとこだった。
あのおっさんが妖怪博士じゃなくて医者でよかったぜ…
けど、あんまり満足しない勝ち方だな。
でも、勝ったからいいか。
俺は少しの間立ち尽くし、自分の勝利の余韻に浸っていた。