複雑・ファジー小説

Re: わかりあうための闘い ( No.82 )
日時: 2014/08/20 09:41
名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)

廉道sid

僕は1回戦で星野くんと闘い重傷を負った、トリニティバードンという出場者もとい運営委員の容態が悪化したと言うので、急いで医務室へ向かった。すると彼は屈強な体中に包帯を巻き、息もだえだえになりながらも、僕を青い真剣な瞳で見て、言った。

「…廉道先生、あなたに…頼みがある…!」

「頼み?」

「用件を話す前に、ここはわたしと先生だけのふたりにしてくれないか」

僕は彼の言葉を遮ろうとしたが、彼の真剣かつ優しさにあふれた瞳を見て、他の医療班のメンバーを部屋から出して僕と彼のふたりきりになった。

「それで僕に頼みって何かな?」

すると彼の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「先生、運営委員の暴走を…狂気を止めてほしい…!あなたなら、それができる…!」

彼が気になることを言った。

彼も同じ運営委員のはず、その彼がなぜ同じ仲間を貶めるようなことを言うのだろうか。

僕が疑問に思い訊ねると、彼は彼自身が知っていることを話した。

それは驚くべき内容だった。

まさか、この大会の本当の目的はそんな残虐非道なものだっただなんて……そして彼はそれを止めようと奮戦したが、彼らには敵わず最終的に粛清対象にされ、先ほどの試合に出されたというのだ。

信じがたい話だったけど、彼の瞳は嘘を言っているようには見えなかった。

「先生、あなたは心の優しい人だ…それは普段の態度で見抜くことができる。
現にあなたは、第1回戦では葵に対し能力を発動せず、あくまでプロレス技だけで闘い、第2回戦では愁二相手に直接能力を発動せず、不発と見せかけ、棄権した。一連のあなたの行動は、若い彼らの無限の可能性を切り開くために行ったものだ…!」

不思議だ。なぜ彼はこうも僕の真意をスバッと言い当ててしまうのだろうか。それに彼はベッドの上にいたはずで、試合は観戦していないはず…テレビで試合の中継はしていたが、それだけで僕の考えが見抜けるとはとても思えない。

すると、彼が再び口を開いた。

「わたしは人の心や考えを見抜く眼力の能力を持っている。能力を使えば、それぐらいはわかる」

そして彼は一呼吸おいて、震える手で傍にかけてあった鞘に入った剣を僕に差し出した。

「コレは…」

「私の愛剣ブレイブレード。私の魂とも言えるこの剣をあなたに捧げよう…勇敢に闘い…勝利を……地球に平和をもたらしてほしい…偉大なるわが友、カイザーと共に……!」

その瞬間、彼の腕から力が抜け、だらりと垂れ下がった。

もしやと思い聴診器で心音を確認してみると、心音が完全に停止していた。

脈もなく、瞳孔の反射もない。つまり……彼は亡くなった。

僕は彼の形見を握りしめ、彼の最後の願いを叶えることを、固く誓った。