複雑・ファジー小説

Re: 堕ちてゆく僕ら−厨二ノ世界− ( No.7 )
日時: 2014/08/15 01:05
名前: ヨモツカミ (ID: cqAdOZIU)



                       †

 五階建て校舎の階段を登り続け、ついに屋上へつながる扉の前までやってきた。
 扉についた窓から、屋上の様子を確認する。いつの間にか降り出した、雨に濡れたフェンスと、暗雲の空が見える。至って普通の屋上だ。
 この角度からは、人が要るかどうかは確認できない。
 僕はスクールバッグから、青い無地の折り畳み傘を出し、開くと、屋上の扉を開け放ち、外へ出た。

 出て、すぐに左のほうに人の気配がして、そちらに視線を送った。

——うわ。

 土砂降りとまではいかないが、傘をさす必要が有るほどの雨。そんな中、傘もささずに、屋上のフェンスに寄りかかり、腕を組んでたたずむ、少女が一人。
 朝、登校する時に、蚊を潰した少女だ。制服も髪も、雨に濡れて、体に張り付いている。

「あら、よく来たわね。煉獄の番犬バハムート」
「もうひとつあって良かった」

 僕は、スクールバッグから予備の折り畳み傘を取り出し、開いて彼女、月山瑠奈に渡した。
 月山さんは、差し出された、無地の青い折り畳み傘をにらみつけて、僕の手を払った。

「あなたを呼び出した理由……それは、あなたの中に眠る神に授けられし力を読み取ったからよ」
「煉獄の番犬バハムートとか言うヤツのこと?」
「それは十二世紀での話。転生後、神に見放されたはずのあなたが、私に出会ったことで、再び力を得たのよ」

 ちょっと意味が分からなかった。
 月山さんは首を傾げる僕を見て、ふっと笑うと、前髪で隠れていた、右目を見せた。
 僕は息を呑む。彼女の右目が、赤色だったから。

「充血してるよ!?」
「してない! これは悪夢ノ右目<ナイトメア・アイ>と言って、抑え切れない私の力をとどめ……」

 落ち着いて見てみると、右目はカラーコンタクトであった。やはり、田舎では流行のファッションなのか。
 月山さんの右目の説明は、半分以上聞いてなかったが(聞いても分からないし)、説明を終えると「だから仲間になりなさい。世界を救う為に」と、言われた。
 僕が聞いていなかった部分で、なにを話せば、僕を勧誘する話になるんだ。

 呆然とする僕を見つめながら、彼女は「……さむ」と、呟いた。

「傘、いらないの?」
「仲間になるのなら受け取ってやるわ」

 寒さに震えながらも、彼女は偉そうに言い放った。
 このまま風邪を引かれても困る。何の団体だか知らないが、仲間になって、傘を受け取ってもらおう。
 僕は、青い無地の折り畳み傘(あ、骨折れてる)を差し出して「いっしょに世界を救おう」と、告げた。
 彼女はにっと笑って言った。

「自己紹介がまだだったわね。私は月女神(ディアナ)。基本的にアルテミスと呼ばれているわ。まあ、好きに呼びなさい」

 こうして、アルテミスさんという、新しい友達ができた。

1話   完