複雑・ファジー小説
- ボーナストラック「末っ子の憂鬱」1 ( No.90 )
- 日時: 2015/01/16 22:30
- 名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: 95QHzsmg)
待ち合わせ場所の宝石店の前に、思わず二度見しちゃうほどの女のひとたちのひとだかりができているのを見て、わたしはそこに誰がいるのか悟ってしまった。
(ああ、やだなあ)
たぶん、お兄ちゃんかパパ。あるいはふたりともかもしれない。
だから、ひと目につくところで待ち合わせるのはやめようっていったのに、パパもお兄ちゃんもプレゼントを買いたいからって、大通りに面した宝石店の前を指定するんだから。
(あのひとだかりをかきわけて合流しなきゃいけないわたしの身にもなってよ)
だいたい、パパもお兄ちゃんも、自分たちが美男子といわれる存在だということに、ひどく無頓着すぎるのよ。ふたりが歩いているとき、すれ違う女のひとがいったいどれだけ振り返ってると思う? わざとハンカチを落として話すきっかけを作ろうとしてると思う? お兄ちゃんに、もしくはパパに渡して、って、どれだけラブレターを押しつけられたと思う?
おまけに、わたしの初恋の男の子なんて、
「おまえの上の兄貴のほうなら考えてやってもいいけど、おまえブスだもん」
って、わたしの一世一代の告白を断ったのよ! ゲイでもないのに!!
(ああ、もうちょっときれいな顔に生まれたかったなあ)
わたしは、自分の顔が世間一般でいう普通に属する顔で、両親に加えふたりの兄がいわゆる美形なのだと気づいて以来、何度となく口にしたことを思う。
わたしの家族は、実は、全員血の繋がりがない。パパとママが結婚したときに、お兄ちゃんたちとわたしを、施設から引き取ったそうなのだ。だから全員まったく似てないはずなのに、もののみごとに、わたしだけ仲間外れの顔をしていたりする。
パパと上のお兄ちゃんはふたりとも金髪で、パパは灰色、お兄ちゃんは青緑色の目をしてる。パパはちょっと冷たい感じの、お兄ちゃんはどこまでも優しい感じの顔をしていて、男のひとなのに、ふたりとも女優みたいに綺麗なのだ。
で、ママと下のお兄ちゃんは、パパたちとはまるで逆で、ふたりともすっごく背が高くて、物語に出てくる騎士みたいにカッコいい。髪の色も、ママは黒髪で、ビリー——あ、下のお兄ちゃんね——も暗褐色だから、なんだか強そうだし。
でも、わたしだけ、くりくりの赤毛に緑の目っていう魔女の配色に加えて、平々凡々な顔。
パパもママも、わたしのことを「世界でいちばんかわいいお姫さま」って呼ぶけど、自分の顔の普通ぶりは、自分がいちばん自覚してるから、そろそろお姫さまって呼ぶのやめてほしいのよね。
「……はぁあ……」
わたしは、もう一度宝石店の前のひとだかりを見て、ためいきをついた。
あの人垣を抜けてふたりの許に行ったとしても、お店から出てきたふたりに見つけられるにしても、あの女のひとたちはわたしを見て、「なにこの子」って顔をする。いままでの経験上それがわかりきっていたから、もういっそのこと先に家に帰ってしまおうか、そうしたら変な目で見られることはないし、と振り返ろうとした瞬間だった。
「あれ? まだお前だけ?」
頭の上のほうから声が降ってきて、見上げると士官学校の制服姿のビリーがわたしを見下ろしていた。