複雑・ファジー小説

ボーナストラック「末っ子の憂鬱」3 ( No.92 )
日時: 2015/01/16 22:31
名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: 95QHzsmg)

 パパは、わたしの動揺に、そのブローチをどこから入手したのか気づいたみたい。顔はあいかわらずニコニコしているのに、目が全然笑ってない。……怖い。
「光るように細工してある琥珀のブローチなんて、学生がその辺で買えるものではないね?」
「……」
 助けを求めるようにお兄ちゃんとビリーを見るけど、ふたりはなにやら楽しそうにニヤニヤ笑っていて、助け舟を出してくれるつもりはないらしい。

「エイミー」
「ひ、ひゃいっ」
「わたしは、自分とよっつしか歳の離れていない息子はいらないよ」
 途端、お兄ちゃんたちが爆笑した。いやだもう、ママのおしゃべり。

 わたしにこのブローチをくれたのは、ママの部下のひとりである、ダニー・ラルストン大尉だ。
 以前、ママの忘れ物を海軍省に届けに行ったとき、省内で迷っていたわたしを偶然見かけてママの許に連れて行ってくれたことから、ちょっとしたおつきあいがはじまったのだ。

 といっても男女交際っていう意味じゃなくて、道案内をしてくれたことへのお礼状をお送りしたら、寮のみなさんとどうぞ、って外国のお菓子が届いたり、寒い場所に航海に行くと聞いたのでマフラーを編んでさしあげたら、お土産にこの琥珀のブローチを頂いたり、ってことぐらいのおつきあいなのに。そして、それをラルストン大尉は、逐一ママに報告しているのに。
(わたしはまだ十三歳で、ラルストン大尉は二十五歳。そんなふうに見てもらえるわけないじゃない)

 なんだか悲しくなってうつむいたら、わたしの代わりにお兄ちゃんたちがパパを遣り込める。
「自分が、グランマ・ゾーイとむっつしか違わない嫁もらっておいて、エイミーにそれをいうのはずるいぜ、親父」
「うっ」
「そうですよ、父さん。それに、ダニーとエイミーは十二歳しか歳が離れていません。アビントン卿なんて、十五歳も年下の、ぼくとおなじ歳の奥方を娶られたんですよ。男が年上のぶんにはいいじゃないですか」
「……」
 パパがむっとして黙り込むのがわかる。わたしが恐る恐る顔をあげると、なんとも奇妙な顔をして、パパがわたしを見下ろしていた。

 わたしは必死にいった。
「……パパ? ラルストン大尉とはそんなのじゃないのよ? ただお手紙のやりとりしたり、お会いしてお茶を飲んだりするくらいなのよ? ほんとうよ、信じて」
(でも、さっきまでいっしょにいて、今日のママのお誕生日パーティにお招きしたことはいえない。さらに、少し遅くなるけど行くとのお返事をいただいたなんて、口が裂けてもいえないわ)
 わたしは隠し事を抱えて内心ハラハラしていたけど、パパはどうにか信じてくれたようだった。力ない笑みを浮かべて、
「せめて二十歳を越えてから、お嫁にいっておくれ」
 なんて気の早いことをいうから、またしてもお兄ちゃんたちは大爆笑だった。宝石店なんていう、高級なお店の中にいるのに。もう。