複雑・ファジー小説
- ボーナストラック「末っ子の憂鬱」5 ( No.94 )
- 日時: 2015/01/16 22:34
- 名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: 95QHzsmg)
お兄ちゃんは少し緊張気味にその箱を受け取ると、頭をさげる。
「突然ご無理を申し上げました」
「いいえ。わたくしどもの商品が、微力ながらも、スコットさまのお力になるようお祈り申し上げます」
「ありがとうございます」
「わたしからも。成功を祈るよ、賢者殿」
「ありがとう、父さん。あなたにあやかれますように」
いってふたりで抱き合うものだから、遠いところで悲鳴が聞こえてきた。お店の外の女のひとたちは、他にご用事はないのかしら。
パパと離れたお兄ちゃんは、今度はビリーと握手しあう。
「アニーの期待を裏切らないでくれよ、兄貴」
「そう祈っててくれ、親友」
そして最後にわたしをむいて、少し身を屈めた。
「ぼくの可愛いお姫さま、いつものように頑張れってキスしてくれるかな?」
わたしは、お兄ちゃんがこれからどこになにをしに行くのかまったくわからなかったけれど、お兄ちゃんの望むままにそのほっぺたにキスをする。
お兄ちゃんはにっこり笑って、わたしの頭を撫でた。そして、
「じゃあ、待ち合わせがあるので、先に行きます。またあとで」
そういうなり身を翻し、出入り口にむかう。ドアを開けて、外の光景に一瞬ひるんだようだけど、そのまま振り返らず出ていった。
「……パパ、ビリー」
わたしは、お兄ちゃんの背中を見送っていたふたりに声をかける。ふたりは揃ってわたしを振り向いた。
「フレディ、このあと、なにがあるの? ママの誕生パーティにはこないの?」
お兄ちゃんは学校の先生に職を得て、職場に近いところにアパートを借りて住んでる。ビリーも士官学校の寮に入っているし、わたしも今年から学校の寮に入っている。だから、いま、家にはパパとママしかいなくて、こんなときでもないと、みんなが揃うことがない。
(お兄ちゃんにもいてほしいのになあ)
ちょっと寂しくなったわたしに、パパとビリーはお互い顔を見合わせ、ああ、とばかりに苦笑した。
「そうか、エイミーにはまだ知らせていなかったのか」
「職探してバタバタしてたから、エイミーが寮に入ったこと忘れてたのかもな。兄貴から手紙届いてないだろ?」
わたしはうなずく。実際に寮に入って何ヶ月もたつのに、なぜかお兄ちゃんの手紙だけは来たことなかったのだ。
こほん、とパパが軽く咳払いして、
「本来なら、フレディの口から直接聞かされるべきことだと思う。でも、あと四時間もしないうちに会うことになる以上、知らせておこう。フレディは、今日、プロポーズするんだよ」