複雑・ファジー小説

ボーナストラック「末っ子の憂鬱」6 ( No.95 )
日時: 2015/01/16 22:35
名前: いずいず ◆91vP.mNE7s (ID: 95QHzsmg)

 その突然のニュースに驚いたわたしの目は、きっと猫のように真ん丸になってたと思う。
(フレディが、プロポーズ!?)
「気が早いぜ、親父。断られる可能性もあるだろ?」
「なにをいっているんだ、ビリー。フレディはわたしとクロエの息子だ。たとえ元王太子でも、相手にとって不足はない」
「兄貴は恋人と戦うのかよ、親バカめ」
「あの……!」
 ほうっておくとコントをはじめかねないふたりの間に割り込んで、わたしはふたたび尋ねた。
「相手は? お兄ちゃんの恋人って、どんなひとなの?」
「どんなひと、って。学校の同級生だったと聞いている」
「んで、いまは議員やってるな。反王政派の急先鋒」
「議員! しかも反王政派!」
 わたしははしたなくも大声をあげた。

 わたしは、ママという女のひととして規格外な存在を目にしてきたわりには、普通の女の子として育ったといわれる。ママみたいに軍人になりたいとは思わないし、できれば好きなひとのお嫁さんになって、お母さんになりたいなと考える、普通の十三歳だ。
 だから、お兄ちゃんが好きになった女のひとが、議員で、しかも反王政派だということに驚くことをとめられなかった。そりゃあ、お兄ちゃんのいってた学校は、王族や貴族の子弟の通う名門校だったから、学校の同級生に議員になるひとがいてもおかしくはないと思うけど。

(けど)
 そのときわたしの脳裏に浮かんだのは、若くして議員になった、とても有名な女のひとのことだった。華やかな彼女の言動はいつも学校の話題にのぼって、彼女のようになりたいと勉強に励むクラスメイトが増えるような、そんな存在。——レディ・フレイムことシシー・リドゲート。

「そ、それで名前は?」
 急きこんで訊くのは、なにも喜んでのことじゃない。
 平々凡々な末っ子としては、これ以上家族に華やかなひとが増えてほしくなくて、レディ・フレイムではないよう願ってのことだった。
 だけどビリーは、
「たしか、シシー・リドゲートじゃなかったっけか?」
「ひっ!」
 そしてパパは、
「それはいまの通り名だね。本名はエキドナ・リジョイス・エインズワース。エインズワース王朝の廃太子、通称……」
「——プリンセス・フレイム」
「なんだ、知ってるじゃねーか」

 炎のような赤毛とアメジストのような瞳を持つ、まさしく『炎の王女』そのひとの名前に、わたしはがっくりとうなだれた。


                           終