複雑・ファジー小説
- Re: Tales of Chronicle ( No.1 )
- 日時: 2014/08/31 00:05
- 名前: スコール ◆ELA/6pDy4Q (ID: lY3yMPJo)
ここは多分、夢の中。最後に覚えている記憶は、見慣れた自室の天井だったから。
「あんた、一体何がしたいのよ」
そうして、あたし"朝比奈寿々華"の口から最初に発された言葉はそれだった。それからはずっと目の前の存在に、そのあたしの質問に答えるようにを促してきた。
宇宙の果てとでも言うべき、真っ暗で何もないこの空間。どこかから光がさしているわけでもないのに、あたしは何かに照らされて姿を露にしている。勿論、あたしの目の前で浮かぶ女性も。
浮いてるっていう、えもいわれぬ無重力感に身体が慣れてきた頃だ。先ほどから、もう何度問いかけたか分からない同じ質問に対する答えが、やっとその女性から返ってきたのは。
あたしと体型が同じで、身長も同じで、挙句の果てには声も同じなその女性。違う点は精々口調と、紫のローブを身にまとって、フードを深く被って顔を隠してることくらいだ。想像したくもないけど、あのフードの奥に隠された顔も、多分あたしと全く一緒なのだろう。
まるであたしの分身みたいなその女性の、フードから唯一覗いている、小さくも艶美な口が動く。
「私がしたいことは、貴方のしたいこと」
声が小さい。あたしとはまるで違う、とても儚いソプラノ調のメロディーみたいな声だ。声の出し方ひとつで、ここまで変わるものなのか。
というか小さすぎて、聞き取るのがやっとだ。何の物音もしないこの静寂を、切り裂いているのは私だけで、その女性は切り裂こうともしないほどに。
そして、答えの意味も分からない。
「はぁ?」
思わず聞き返した。
この目の前にいる女性。実はこのところ、あたしが夜眠りにつくと、必ずと言っていいほど目の前に現れる。
何時からだろう。この女性が、あたしの前に現れるようになったのは。考えてみるけど覚えていない、気付いたら、目の前に現れるようになった。たったそれだけなのだから。
そもそも、これが夢と言い切れるかどうかも怪しい。最後の記憶が、布団の中で自室の天井を見ていた、ということを考えると夢なのだろうけど、実際はどうなのかサッパリだ。
それで、あたしはこうして問いただすようになったわけ。最近まで無視していたけど、何か鬱陶しくて。
「どういうことよ。あたしのしたいことって」
「そのままの意味」
今度は、打てば響くように返事が返ってきた。
あたしのしたいこと。一体なんだろう。折角女子高生やってるのに、あんまり気にしたことないな。
「何アンタ、セックスしたいの? そのために態々ここにいるの?」
だから、ちょっと冗談を交えて言ってみる。
「それは、貴方が本当にしたいことじゃないでしょう」
「あ、あはは。バレた?」
冗談が通じてるのか通じてないのか。それすらも分からない。
まあ会話を進めていく中で分かることはあるだろうから、深く考えないことにする。
「それで、アンタ誰だよ? えらいあたしと体つきが似てるけど」
「————」
「だんまりか?」
「来る」
「は?」
来る。その女性がそう言ったとき、ふと頭上が真っ白な光で満たされ始めた。
まるで水中から空を見上げているような、神秘的というか、とりあえず綺麗な光景であって殺風景ではない。
気付けば、その女性は踵を返して歩き出していた。
「まて!」
そういって追いかけるけど、なぜか距離は縮まらない。
まあ浮いてるんだろうから、走ってもしょうがないだろうけど。
「貴方は直に、眠りから目を覚ます。覚ましたら、覚悟すること」
「覚悟? 何を?」
何の覚悟だと問い詰める中、女性の姿はボンヤリと陽炎のようになっていく。
「貴方は知る。知ってしまうの」
「知るって、何を……うっ……」
すると突然、あたしの意識が酷く朦朧としてきた。女性が徐々に姿を晦ますのと比例するように。
やがて、意識は途切れた。
「この世界の真実を」
その言葉を最後に。