複雑・ファジー小説
- Re: ラストメモリアル ( No.2 )
- 日時: 2014/09/13 09:43
- 名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)
長年風雨に晒され続け、手入れもされずに荒廃した廃墟を背後に控え、正に直立不動の状態で立つ男がいる。
右手に金の装飾が施されたロングソードを、左手に赤い宝珠の埋まった盾を携え、全身に白銀の鎧とフルフェイスの兜を纏ったその姿。宛ら御伽噺に出てきそうな、どこぞの聖騎士の恰好である。
そんな男の前には、彼とは対照的に、比較的肌の露出が多い装備を身につけた女性が立っている。
お世辞にも豊満とは言えない胸を蔽うだけの、男と同じ色をした軽鎧。まるでブリーフパンツのような形をした、下半身を保護しているとはとても言い切れない鎧。加えてショートソードを2本携えたその様は、まさに"肉を切らせて骨を断つ"を具現化したようである。
その両者とも、現在は目立った動きを見せずに膠着状態を続けている。
代わりに動くのは、風に吹かれている黒き雷雲。雷鳴と稲妻を轟かせつつ一定の速さで上空を動き続けるそれだが、それによって晴れるかと言えばそうではない。日の目が地上を照らす気配はなく、暫くは稲妻の雷光だけが、地上を明るく照らし出すことだろう。
そして何より、中でも最も大きな動きを見せているのが、両者の舌と唇。
「あくまで、そこを退くつもりはないのね?」
威厳ある声で「そこ」と言いつつ、男の背後に控える廃墟を指す。
同時に、長く何の飾りもない金髪を風に靡かせる女性が、髪色と同じ瞳の眼光を鋭くさせて男に訊ねた。
もう何度目だろうか。この質問をしたのは。さりとて男はその女の質問を、訊かれる度にはぐらかしてきた。否、遠まわしに自分の答えを訴えてはいるが、我を若干忘れかけている女性には彼の意思は上手く汲み取ってもらえないらしい。
男は苛立ちを感じたかのように、雑草さえも生えていないこの荒野の固い地面を踏みしめなおす。ぎり、と小石と具足が擦れる耳障りな音がしたが、雷鳴と風の音にかき消された。
「ここは……」
訊くほうも訊かれるほうも、最早何度目か曖昧で分からない女性の質問に答えようとした男は、そこまで言いかけて口を噤んだ。代わりにと言うべきか、彼の足と右手が動いている。
男は地面を蹴って人間離れした跳躍をすると、上空10メートル先から、同時に振りかざした右手の剣を振り下ろす。
その切先は、女性の脳天へと。
「っ!」
油断した。重装備とも言える鎧を纏っているとは思えない、その男の俊敏な動きに。
女性は大した処置も取れずに回避の機会を逃してしまい、止むを得ずショートソードを交差させて頭上を庇う破目に。
防御の態勢をとった刹那、すぐ目の前で刃を交えたことによって火花が発生。同時に響いた耳障りな金属音は、一瞬だけ鼓膜を破るような大きな音がして、火花と共にギリギリと小さな音が鳴り続ける。
「待て貴様! 自分のしてることがなんなのか、分かっててやってるのか!?」
刃が交わったのとほぼ同時刻。女性は、明らかな焦りを表へと露にした。
彼女が焦っている理由は、言ってしまえば至極単純。単に刃が交わっているからである。
だが、何故か。そこまで深く問うとなれば、簡単には説明が付かない。それを表しているかのように今、火花を散らす中心部からは、白く眩しい光があふれ出しつつあった。暖かく、それでいて少なからず冷たさを含む光が。
それに双方が気付いたときには、もう遅かった。
「きゃあ!」
「うわあ!」
小さかった光は一瞬にして肥大化し、臨界を越え、莫大な爆発エネルギーを生み出した。
ロングソードを以って女性に切りかかった男の鎧が、その爆発エネルギーにより完膚なきまでに大破。同時に盾も砕けて男は吹き飛ばされ、地面を数回にわたって転がった。
寝癖のようにボサボサな白髪と、大破して砕け散った鎧と同じ色の銀の瞳が露になる。無事なのは、彼の命とその剣のみ。
一方で女性も吹き飛ばされていた。その時彼女は一瞬で、防御のために霊妙な技術から成る魔方陣を組み上げていた。しかし、出来上がるのと同時に魔方陣は壊れ、虚空へと消えて効力を失う。尚も爆発エネルギーは健在で、威力は多少弱まったが、それでも大きな威力を誇っていることに違いはない。
男と同じく、鎧は砕けて地面を転がる。おかげでその女性は全裸を曝す破目となったが、今は羞恥に悶えている場合ではない。近くに落ちた自分の獲物を素早く拾い上げ、膝をついている男を睨む。
「だから言ったのだ。私の警告を無視した上、貴様は世界も壊すつもりか」
「壊れたなら、作り直せばいいだけの話だ。もとより、このような腐りきった世界など、なくてもよかったんじゃないか?」
「世迷言を……」
絶えず睨みを利かせているその裸の女性を見ても、男は特に何の感情も抱かず、ただ立ち上がった。
地面に刺さった剣を引き抜き、再び身構えるその男。戦闘意思は明らかだが、どこか何かに絶望しきったかのように、瞳からの輝きは消えている。ただ、背後の廃墟に女性を侵入させないという意思だけは、今も尚その瞳に宿している。
————再び膠着状態が続く。するとふと、大きな地響きがした。
「しまっ——」
しまった。ただその一言を言い終える前に、女性は何かの糸がぷっつりと切れたかのように、不意に意識を闇へと落とす。同時に男も、女性と同じようにその場に倒れ伏した。
突然すぎる出来事に、成す術もないまま。
————そして、星の意識も闇へと落ちた。
