複雑・ファジー小説
- Re: 太陽天使隊 ( No.14 )
- 日時: 2014/09/23 21:08
- 名前: スクランブルエッグ(元モンブラン博士) (ID: EhAHi04g)
愁二side
「……」
予選を何事もなく通過し、本選の一回戦へコマを進めようとしていたこの俺、雲仙愁二に訪れた最大の危機。それは、目の前を塞ぐひとりの男。
「お主が、拙者の対戦相手でござるか?」
サラサラとした黒髪を後ろで束ね、白い肌に猫のようにくりくりとした黒い瞳、小柄で華奢な体格に昔のサムライが着ていそうな服に身を包んだ少年は、男なのに結構可愛い顔で俺を見ると、口を開いた。
俺は、ただ頷くことしかできない。
彼が腰にさげてある日本刀、それが今、俺を何より恐怖させていた。
すると彼は手をポンッ!と叩いて、恥ずかしそうに照れながら、
「そういえば、自己紹介がまだでござったな。拙者はこの大会の運営委員のひとり、川村猫衛門でござる。よろしく頼むでござるよ」
ニコニコ笑って手を差し伸べる彼を見て、俺は思案する。
この手は握るべきだろうか…
仮に握ってその隙をつかれ攻撃されないだろうか…
そんな心配をしていると、彼は俺の手を掴み、優しく握手をした。
「怖がることはないでござるよ。拙者は他の皆の衆より、最終予選の鬼ではない自信があるでござる」
最終予選?一体なんの話だ?
最終予選ということなど、今はじめて聞くために俺は面食らってしまった。
俺の顔を覗き込んだ彼は少し不思議そうな顔をすると、急に何かを理解したかのような顔になり、丁寧に説明を始めた。
「拙者がお主の前に現れたのは、お主が本選の第1回戦に出場できる資格があるかどうか、試すためでござる。拙者を退け、無事本選会場までたどり着くことができれば、クリアでござるよ」
なるほど、彼の説明で大体の事は把握できた。
少し怖いけど、俺には銃がある。これがあればどんな敵も怖くはねぇ。
そう確信した俺は、キッと彼を睨みつける。
「お主、どうやら、やる気になったようでござるな。拙者は嬉しいでござる。では、最終予選の開始でござる。お主、どこからでもかかってくるでござる」
彼は可愛らしい顔で微笑む。
少し気の毒だと思ったが、俺は優勝して賞金10億円が欲しい。
それでゲームとか漫画とか、欲しいものを好きなだけ買いたい…悪いが俺の欲望の犠牲になってくれ、川村猫衛門…!
俺は腰のホルスターに手を伸ばし、銃を引き抜くと、引き金を引いた。
けれど、彼は血を噴き出してもいなければ、倒れてもいない。相変わらず飄々とした雰囲気で俺を見つめている。
よく見てみると、俺の手はかすかに震えていた。
恐らく初めて殺人を犯すという恐怖が、無意識のうちに狙いを外しているのだろう。
実は、この大会は殺人も認められている。
だから、殺しても罪には問われない。
そのため、殺人を犯す輩がいるという噂を聞いたときは驚きを隠せなかった。
だが、欲望が殺人衝動を引き起こすのだろう、今の俺には欲望にかられ、予選で殺人を犯したくなる人の気持ちがよく分かった。
「どうしたでござるか?撃ってきてもいいでござるよ」
俺は正直、欲望のためとはいえ、殺人を犯すことが耐えられなかった。
だが、背に腹は代えられない。許せ、川村!
パン、パン、パン!
確実に命中したはずの、3発の銃弾。
けれど、それは全て命中してはいなかった。
なぜだ、こんな至近距離で撃って命中しないはずが…
「普通の人間ならそうでござるよ。でも拙者はそうならないのでござる」
彼は胸を張り、所謂ドヤ顔をした。
クソッ…何がどうなってやがる。
自分の体の耐久性を上げる能力か?
すると、彼は少しいたずらっぽい子猫のような笑みを浮かべ、俺に銃を撃つように催促した。
コイツ、アホじゃないのか?
この時、俺はそう直感した。
この発言は、まるで自分から殺してくれと言っているようなものじゃないか。
しかし、こいつがどのように銃弾の攻撃を受けずにすんでいるのか気になって仕方がなかったので、俺は彼に言われた通り、弾を込め直して引き金を引いた。
だが、彼は先ほどと同じように、無事だ。
「拙者の足元を見るでござる」
彼の足元を見て、俺は息を飲んだ。
なんと、彼の足元には、綺麗に真っ二つに切断された銃弾が彼に撃ちこんだ分だけ落ちていたのだ。
この光景を見て、導き出された答えはひとつ。
彼は全ての銃弾を、目に見えない速さで一刀両断にしていたのだ。