複雑・ファジー小説
- Re: 太陽天使隊 ( No.15 )
- 日時: 2014/09/23 20:30
- 名前: スクランブルエッグ (ID: EhAHi04g)
雄介side
「お前の力はその程度の軟弱なものだったという訳か。俺の足元にも及ばん」
俺は今、不動と名乗る男と交戦しているが、大苦戦を強いられている。
何しろ、能力が使えない。
奴が俺の能力の源であるカードを、自身の能力で消滅させてしまったからだ。
カードがない俺は丸腰。当然のことながら、戦闘能力も大幅に減少する。
「ガキは俺が殲滅する!」
剛腕を振るい、その拳の威力を持って地面に亀裂を発生させる、不動仁王。
ちなみにこれは能力ではなく、修行をすればこれぐらい簡単にできるようになるというが、俺からしてみればたとえ100年修行しても不可能な技に見える。
コイツは本当に人間なのかという疑問が俺の頭を掠める。
勝てない、そう判断した俺は、力の限り走った。
足がもげそうなほどの激痛に耐え、走り続ける。
肺が破裂しそうなほど苦しくても、走るのをやめることはできない。
なぜなら、もし今ここで走るのをやめてしまえば、般若のような恐怖の顔を持つおっかない不動の拳の前に、俺は確実にハエのように叩き潰されてしまうだろうから。
走り続けるうちに息が乱れ、汗が噴き出し、俺の体は限界に達しそうだった。
だが、そんな俺とは正反対に、かなりの距離を走っているというにも関わらず、彼は息ひとつ乱していない。
コイツは、化け物か。
「走るがいい、この俺に往生されたくなかったらな!」
国語の授業で習った、『走れメロス』の主人公メロスの境地が少しだけわりかけたとき、俺の目の前に、天国かとも思える光景—すなわち開会式が行われるスタジアムが見えた。
野生的に吠え、全身の力を振り絞り、試合会場に入った。
床に手を突き、ふと後ろを振り返ると、奴の姿はなかった。
これはあくまで俺の推測だが、たとえ運営委員であっても、1歩でもこのスタジアムに入ったら、出場選手に手を出すことは禁止されているのだろう。
九死に一生を得た俺が、他の運営委員の導きでホールに行くと、そこにはもう既に10人ほどの能力者たちが到着していた。
なるほど…こいつらがライバルってわけか…
さっきの疲れはどこに行ったのか、これから死闘を繰り広げるライバルたちの顔を見るうちにアッという間に吹き飛んでしまった。俺はライバルたちの気迫に飲まれてはならないと、闘志を燃やす。
優勝して、世界一の能力者の称号と、賞金の10億を手に入れるのは、この俺、上条雄介だ!
☆
「それではこれより、第20回能力者バトルトーナメント本選を開催したいと思います!」
バトルトーナメントの本選に出場できたのは、俺を含めわずか16人。
だが、1000人いた予選を勝ち残った16人なのだから、みな強豪であることは間違いない。
そして、何より嬉しかったことと言えば、あの不動やジャドウが選手として参加していないことだろう。
あいつら2人が参加していたら、俺の勝率が間違いなく低下していたところだった。
主催者による開会宣言が終わり、いよいよ待ちに待ったトーナメント表が発表された。
第1回戦Aブロック第1試合は、なんと俺とベリー=クラウンという少女との試合だった。
大勢の観客(軽く1万人は入っている)が見ている中で闘うという経験は初めてだったが、プレッシャーに飲み込まれてしまっては、もし仮にここで勝ち上がったとしても、これ以上勝ちあがることはできないだろう。
俺はステージに上がり、敵である、小学生かと思えるほど小柄で青い瞳、金髪を二つに結っており、黒のフリルドレスを着た少女と向き合った。
彼女は可愛いものが好きなのか、背中に大きなピンクのウサギのぬいぐるみを背負っている。
「あたし…ベリー…これ、うさぎちゃん」
「ああ、そうかよ。悪いが俺はぬいぐるみなんて興味はねぇからな。とっとと片をつけてやるぜ!」
すると彼女は少し黒い笑みを浮かべてつぶやいた。
「そう…あたしに勝てたらいいわね…」
そしてついに、俺と彼女の、試合開始を告げるゴングが会場に鳴り響いた。
☆
「……行くよ、うさぎちゃん」
彼女は試合開始のゴングが鳴った刹那、いきなり俺に大鎌を振り回してきた。
巨大な鎌は空気を切り裂き、俺の頬を風圧が掠める。
「あんた、おっかねぇ武器持ってんだな」
「……あなたの武器はなに?」
「俺の武器はこのカードだ」
ホルスターからカードを展開し、バリアを作り出して、彼女の攻撃を防ぐ。
しかし、彼女の得物である大鎌の威力は相当なもので、いとも容易くバリアを破壊した。
「……あたしは、何がなんでも、10億円が欲しい…そのために優勝するの…」
「それは俺も同じだ」
答えると、彼女の顔に少し影がかかった。
「…あたしがお金が欲しい理由も知らないくせに…同じだなんて言わないで…!」
ドォン!
小柄の体のどこに、それだけの力があるのかと思えるほどの斬撃を繰り出し、彼女は俺を圧倒し始める。
あの鎌の攻撃を防ぐのに、かなりの回数を使いこなしてしまった。
カードには回数制限があり、回数を過ぎてしまうと、能力を発動できない。
このまま試合が進んでしまい、カードを何枚も使用してしまえば回数制限をオーバーし、能力を発動できなくなってしまうだろう。
そうなれば、俺に勝ち目はない。
その時、彼女の大鎌が俺の体を斜めに斬りつけた。
斬られたところからは、まるで映画のグロイシーンのように、大量の血が噴き出す。
斜めに斬られた傷の血は止まることを知らずドクドクと流れていく、恐らくこのまま何も対策を取らずに放っておけば、俺は間違いなく、死ぬ。
嫌だ、俺はまだ、生きたい!
極限の精神状態の中、ついに俺の心の中のタガが外れてしまった。
「ヒャハハハハハハハ!」