複雑・ファジー小説
- Re: 太陽天使隊 ( No.16 )
- 日時: 2014/09/23 21:01
- 名前: スクランブルエッグ (ID: EhAHi04g)
ベリーside
彼はあたしの度重なる攻撃に、ついに我を失った。
まるで獣のように吠えながら、何の戦略もなく、ただイノシシのように猪突猛進で向かってくるだけだ。
あたしは事前に彼の闘いぶりを、先の闘いでよく観察しているから、彼の戦法や癖などが手に取るようにわかる。
今の状態は、彼が精神的に追い詰められどうしようもなくなったときに発動する、通称戦闘狂モード。
最終予選で、あたしの相手をしたジャドウさんからこの情報は聞かされていた。
「奴はこのモードになると、大幅に戦闘能力を上昇させ、体の一部を破壊してくるカードを使用してくる。くれぐれも気をつけることですな…」
彼の言葉を思い出し、まるで獰猛な闘犬のように挑みかかってくる上条雄介に、彼がカードを展開するよりも早く、大鎌の斬撃を浴びせた。
ドサッと音がして、彼が地面に倒れ伏す。
彼はおなかから先ほどよりも激しい血を流し、完全失神していた。
「勝者、ベリー=クラウン!」
ステージの外で待機していたレフリーが、あたしの勝利を告げ、ステージに上がるとあたしの右腕を掴み、上へ高々と上げた。
これでまずは1勝目。
これで10億円にまた一歩近づいた。
☆
愁二side
「勝者、ベリー=クラウン!」
マジかよ…
Aブロックの第1試合を観戦していた俺は、予想外の出来事に息を飲んだ。
あの女、あの上条雄介とかいうカード使いを倒しちまった。
しかもただ倒したわけじゃない。
敵の癖や戦闘方法を見抜いて、冷静に分析した上で圧倒して倒した。
これは恐らく、誰かの入れ知恵に違いない。
だが、仮にそうだったとしても、ただの一度も攻撃を食らわずに、一方的に下しちまうだなんて、彼女はあまりにも強すぎる。
勝ち名乗りを上げている、彼女の姿を見たとたん、一気に恐怖が募ってきた。
俺も他の参加者と同じく、賞金10億円と、何でも願いを叶えてくれると言う権利がほしい。
けれど、それと命を天秤にかけるのには、あまりにも無謀すぎる賭けだ。
棄権しようか。
そんな考えが頭をグルグルと回る。
しかし、ここで棄権しまえば、もしかすると人生1度きりの貴重なチャンスを不意にしてしまう事になる。
それは、あまりにもおしい。
念のため、俺の対戦相手が誰なのかという事を、電光掲示板で確認してみる事にした。
対戦相手は巳鍵非檻とかいう読み方が難しい名前の少女だ。見たところ、あまり強そうではない。
だが、油断は禁物だ。仮にも雄介は女に負けたのだから、油断はしないほうが賢明だろう。
そして、もう一度、改めてじっくりと敵の得物を観察する。奴は、小型の拳銃とナイフを武器として所持していた。
武器の内容は、大方俺と同じだということがわかった。これで、幾分か戦闘に対するイメージトレーニングができそうだ。早速目を瞑り、イメージトレーニングを開始する。
拳銃とナイフは、ゴーレムで防げば問題ない。
だが、問題がひとつ浮上した。
それは、奴の能力がまだわからないと言う事だ。
能力さえわかれば、その能力がどんなものかで俺の勝敗が決まるというのに…
ここまで、俺は7割ほど彼女に勝利すると踏んでいた。だが、彼女の未知の能力が分からない以上、残りの3割の確率が俺の勝利を阻害する。
クソッ、相手の能力さえわかれば安心できるのに…
闘うのがまた怖くなってきた。
けれど、その恐怖をつばと一緒にゴクリと飲み込む。
軽く息を整えて、冷静を取り戻し、俺は誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
「俺も男だ…よし、やるか!」
俺はBブロックの白い大理石のステージに、ゆっくりと足を進めた。