複雑・ファジー小説

Re: 太陽天使隊 ( No.17 )
日時: 2014/09/23 21:03
名前: スクランブルエッグ (ID: EhAHi04g)

愁二side

試合が始まるや否や、俺の手はブルブルと、緊張で手足が震えていた。
やっぱり、こんな大勢の観客の前で闘うと言うのは、初めてというだけあって相当なプレッシャーが襲い掛かってきた。
もし、このまま下手な試合をしてしまえば、ブーイングの嵐を受ける事になるのは、目に見えている。
そんな不安と緊張で固まっている俺とは対照的に、敵の方は1万人を超える大観衆を相手にしても、緊張するどころか、逆に俺に自己紹介までしてきやがった。

この女、見かけによらず肝が据わってやがる…

そう思った次の瞬間、彼女は腰にあるホルダーに手を伸ばした。
即座に、俺は次の彼女の行動を予想して、ゴーレムを生成する。
間一髪で間に合い、彼女の銃弾を無効化することができた。

今回のゴーレムは、リュックの中から取り出したあらかじめ持ち込んでおいた、砂で作った砂のゴーレムだ。
大理石のゴーレムを生成しようかとも考えたが、そんな事をしては、闘うリングがなくなってしまう。
それだけはごめんだ。
砂のゴーレムは、水や音、風の攻撃にはめっぽう弱いが、その代わり打撃や物理攻撃を砂の体で無効化するというたいそう便利な能力を兼ね備えている。
彼女はナイフで攻撃してくるが、当然、体が砂で構成されているゴーレムには、効果がない。
すると、彼女の青い目が、まるで夜のネコの瞳のようにピカッと怪しく光った。

彼女の目を見ていると、まるで大嫌いな妖怪やお化けと目の前で対峙しているような感覚に陥り、俺の背中は、一気に冷や汗びっしょりになってしまった。

「あたしの能力は、相手を見つめ、指示を出すことで、その相手の動きを制限させることができるんです。ゴーレム、そのまま動かないで!」

彼女は、自らが持つ、その半ば反則的とも言える能力について、丁寧に説明する余裕ぶりを見せつける。
この態度から、敵と俺の実力差がどれほどのものなのかは、一般の観客たちでも容易に想像がつくものである事は、言うまでもない事実だ。
どうする事もできないほどの恐怖のあまり、俺の脳裏に走馬灯が見えてきた。
彼女に殺される様子を想像し、それが現実に起こるのに恐ろしさを感じ、思わずぎゅっと両目を閉じた。



しばらくして目をあけると、そこには何も変わり映えしないゴーレムと、腰に手を当て立っている敵の姿があった。
けれど、ゴーレムの見かけには何の変化もないため、物は試しと取りあえず指示を出してみる。
すると、なんとゴーレムが動いた。
なぜ動く事ができたのだろうか。
俺は普段使わない頭を懸命に回転させ、答えを導き出す。

そうか、もしかすると、コイツの能力は生き物だけに効果を発揮して、ゴーレムみたいな人工物には効果を発揮できないんじゃ…

そう思案して、俺は棒立ちになったままの彼女を見つめる。
その顔は心なしか青ざめており、悔しそうに噛みしめた唇からは血が滴っている。
一体どれほど強く唇を噛みしめたら、血がでるのだろうか。ふと、そんな疑問が脳裏をよぎったが、今はそんな事を考えている場合ではない。
俺はこの場を最大のチャンスとばかりに、ゴーレムに大声で指示を与えた。

「いっけえ、ゴーレム!彼女にパンチをお見舞いするんだ!」

「きゃああああああ!」

彼女は、ゴーレムの巨大な砂の拳から繰り出されたパンチをまともに受け、甲高い叫び声えをあげた後、思いっきり吹き飛ばされて、気絶した。

「勝者、雲仙 愁二!」

その刹那、レフリーが試合の判定を下した。
自分でも信じられないことに、俺の勝利が決まったのだ。
多分、これは単に敵との相性が良かっただけなのだろう、つまりこれは、所謂運ゲーと言う奴だ。
だから、次はどうなるかわからない。
もしかすると、相性最悪の相手に当たって敗退する可能性だって考えられる。

けれど、俺はこの1勝で今までと違い、明らかに、自分に自信を持つことができた。