複雑・ファジー小説

Re: 太陽天使隊 ( No.22 )
日時: 2014/09/23 21:05
名前: スクランブルエッグ (ID: EhAHi04g)

ナーニャside

僕は、勝利を信じてリングへあがる(ちなみに一人称は僕だけど、実は女だ)。
1万人を超える大観衆。割れるような声援。特等席には、ズラリと運営委員の人たちが並んで座っている。
そんな僕の対戦相手は、黒髪で少しボサボサした短髪に少し大きく黒い釣り目で、服装は灰緑色で記事の薄いジャンバーにベージュの長ズボン。靴は白を基調としたスニーカーを着て皮手袋をはめた男性、安瀬須澄さん。
彼には申し訳ないけれど、僕にはどうしても勝たなければならない、理由がある。

それは決して、賞金が欲しいからじゃない。
狙っているのは、なんでも願いを叶えてもらえるという、あり得ないほど最高の景品。
別に僕は、その権利でお金持ちになりたいとか、世界征服をしたいとかそう言ったことには一切興味がない。僕の願いはただひとつ—
自分の心の中に潜む、もうひとつの人格、零を消してもらう事。

幼いころから虐められていた僕は、虐められないようにと、自分の心の中で凶暴なもうひとつの人格である、零を作り出した。ひとつの体にふたつの性格。
初めはそれでもうまく行っていたのだけれど、いつごろからか急に零の力が強くなって、僕の意志とは関係なく、表に出てしまうようになっていた。
そのせいで、色々と問題を起こし続けて、大切な家族や友達に迷惑をかけてしまっているため、僕は零を追い出して元に戻る事を決意した。

必ず、この試合に勝って、願いを叶えてもらえる道に一歩前進して見せる!



「ナーニャ、お前弱いな」

彼は倒れている僕を、これでもかとばかりに踏みつける。全身に走る激痛で立ちあがることさえ叶わない。

試合序盤、僕は優勢に敵を攻めていた。
毒を塗ったナイフを振り回し、敵をけん制していたのだが、突如彼の動きが、静から動へと変化した。
僕のナイフ攻撃を、まるで行動を先読みしているかのように、軽々と避けていき、腹に蹴りを浴びせた。
その威力でナイフを手から落としてしまい、それからは防戦一方だった。

もし、このまま負けてしまったらどうなるんだろう?

ふと、そんな思いが頭の中をよぎる。
また、僕は零の言いなりになって、体を乗っ取られて、みんなに迷惑をかけるの?

そんなの、嫌だよ…

自然と溢れ出る涙が頬を伝い、大理石の床を濡らす。
ここで負けたら、零の支配から逃れられられるチャンスを永久に失う事になる。

それだけは、絶対に嫌っ。

その時、特等席の方から、大声で僕の名を呼ぶ声がした。ハッとして顔を上げると、ロディさんが口に手を当てて、大声で僕の名を呼んでいた。

「ナーニャちゃん、あんたならぜってぇ勝てるぜ!」
「どうして…そう、思うの…?」

途切れ途切れになりながらも、僕は彼に訊ねる。
すると彼は「イーハー!」と口癖を言って、

「根拠なんざ何もねぇ!けど、俺には分かるんだ。この試合、あんたが勝つって事がな!」

根拠のない自信。そんなものは持たない方がいいと言う人もいる。
けれど今の僕にとって、彼の根拠のない自信ほど、勇気と闘志を再び奮起させるものはなかった。

その言葉によって、闘志を取り戻した僕はストンピングを続ける敵の足を掴み、彼を押し倒すと、素早く間合いを取って、能力を発動しようと身構える。

「お前はどんな能力の持ち主なんだよ」
「今から見せてあげるわ」

僕は虚空からカードを出現させて、敵に向かって投げつける。

「これは、上条雄介の能力じゃないか!」

彼は目を見開き、驚愕の表情で僕を見つめる。

「僕は他人の能力を、最大3つまで自由に使用する事ができるの」

そして更に非檻さんの人の動きを制限させる眼を発動し、彼が動けなくなったところをハウ後に回って、バックドロップで大理石の床に叩き付けて、気絶させた。

「ロディさん、ありがとう!あなたのお蔭で勝利する事ができました!」

彼に向って大声で喜びの声をあげると、彼はフッと少しカッコいい笑みを浮かべ、その場から去って行った。