複雑・ファジー小説
- Re: 能力者物語 ( No.25 )
- 日時: 2014/09/23 21:20
- 名前: スクランブルエッグ (ID: EhAHi04g)
廉道side
2時間の食事時間は終わり、午後の試合は幕を開けた。
その第1戦目は僕の試合だ。
既にステージには僕の対戦相手である、日向葵さんが上がって待っていた。
彼女は長い金髪に碧眼という、どこからどう見ても僕と同じ日本人には見えない風貌をしている。もしかするとハーフなのだろうか。そんなことを考えていると、彼女が言った。
「私はこんな容姿をしていますが、日本人ですよ。あなたが私の対戦相手である、廉道さんですね。日向葵と申します。お手柔らかにお願いしますね」
なんだか、彼女は今まで見てきたここの出場者とは違い、礼儀正しく好印象を受けた。
彼女が自己紹介をしたので、僕も同じように返す。
「僕は廉道。僕みたいなおっさんが君の対戦相手でいいのかなあ」
「いえいえ、お気になさらないでください。あなたみたいなベテランの能力者と闘えて光栄ですわ」
「それは僕としてもうれしいなあ、あっ、言い忘れていたけど、僕はこの大会の医療班をやっているんだ。この試合が終わったらきみの手当てもしてあげるよ。お互い正々堂々全力で闘おうね」
「はいっ!」
試合開始のゴングが鳴り響き、僕たちの試合が始まった。
☆
葵side
私がこの大会に参加した理由。それは、賞金が欲しいわけでも、願いを叶えてもらいたいわけでもありません。
そもそもお金なら我が家にうなるほどありますし、叶えてほしい願いなんてないのです。
大会に参加した理由、それはただ自分の力が、どれほど世界の強豪相手に通用するかという実力試しで参加しただけにすぎないのです。
ですが、ここでまできたら、あとはどんな相手に対しても全力を振り絞って悔いを残さないように闘うだけです。
「ハッ!」
試合開始のゴングが鳴るや否や、早速彼に蹴りを放ち
ますが、彼は熟練した動きで、繰り出す蹴りを次々に避けていきます。
「うん。いい動きだね。スピードもあるし、キレもある。素晴らしいよ」
「驚くのは、まだ早いですわ」
彼の腰のあたりを掴み、ジャーマンスープレックスで放り投げ、すかさずフォールを奪いにいきます。
ですが、彼はカウント2でわたしを押しのけ立ち上がると、ボクシングの構えを取りました。
「僕は医者だけど、これでも格闘の腕には自信があるんだ。君は蹴りは得意かもしれないけど、打撃はどうかな?」
「もちろん、大得意ですわ!」
彼のパンチに合わせて片方の手で攻撃を弾き、余ったほうの手でジャブを繰り出します。
けれど、リーチが短いためなかなかヒットしません。
「キックもいいけど、パンチもなかなかいいね。僕みたいな大人でなかったら、きっと君は武術大会とか格闘大会で優勝してもおかしくない腕だよ。でも…ここで勝ち残るのは難しいかもしれないね」
「えっ?」
彼は素早く足払いをかけて転倒させますと、微笑み、
「足がお留守になっているよ。腕と足を交互に使ってバランスよく攻撃することが大切なんだ」
私は、彼のアドバイス通りに手足を交互に使って攻撃を開始します。
「君は物覚えがいいね。もうはや僕の動きについてきているじゃないか。きみはこれからもっと成長するよ」
パンチとキックを、上半身をくねらせながら、必要最小限度の動きだけで避けていく廉道さん。
さすがに熟練の能力者は強さが違います。
「僕はもうおっさんだからね。本当はお兄さんって呼ばれたいけど…だから僕は無駄な動きは一切しない。必要最小限度の動きで体力の消耗を押さえるようにしているんだ」
彼は朗らかな笑みを浮かべると、手刀をお見舞いしてきました。
それを避けると、今度は裏拳が飛んできます。
「四方八方、360度どこからでも攻撃できるように、常に神経を張り巡らしていなければいけないよ。こうすることで、敵が攻撃をしてきても瞬時に対応できるからね」
彼はわたしのローリングソパットを受けとめ、そこから逆エビ固めをかけます。
「この技は逆エビ固めと言ってね、どんな変わり身の上手いレスラーも決して逃れられない技だよ。背骨が折れないうちに、ギブアップしたほうがいいと僕は思うな」
彼はお話をしながらもすごい力で背骨を攻めていきます。ですが、そう簡単にギブアップするわけにはいきません。すぐさま能力を発動させ、脱出不可能である逆エビ固めを脱出します。
私の能力は5分間と言う一定時間ながら、敵の攻撃を全て無効化する事ができる、まさに無敵の能力なのです。
対する彼の能力は、本人の話によると傷口から細胞を死滅させて激痛を引き起こさせたり、細胞の活動を活性化させて傷を治したり、自分の体を再生させたりできる能力だそうです。
ですが、私は彼からこの話を聞いた時、彼の能力の弱点が分かってしまいました。
それは—
「たとえ体の傷を再生できたとしても、体力までは再生できません!」
「…!」
私はフルパワーで、彼を大理石の床にパイルドライバーで串刺しにして、勝利を収めました。
試合後、彼は立ちあがって、握手を求めました。
「楽しい試合をありがとう。またいつか、きみと対戦できるといいな」
「はいっ!」
廉道先生の手は、優しく、そして温かいものでした。
彼の分まで闘って見せると約束して、私はステージを降りました。