複雑・ファジー小説

Re: 或る国の僕と君と…【コメ募集】 ( No.14 )
日時: 2014/09/28 15:15
名前: 姫音桜子 (ID: 7TW18VFI)

「何をですか?」

「わしの…これまでの事とリディアーヌのこと…」
カミルはおじいちゃんをベッドに座らせ
話を聞こうとする

「…話、聞きます…」

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あいつはとにかく活発な子で
普通の子供より変わってた奴だった
誰に似たのかなと妻と笑って話したこともあった
でも、いくら変わった子でもリディアーヌを
育てたことに後悔はしなかった

お母さんが好きでよく甘えていたことも
覚えている

好きなものは絵を書くことと
畑で時々作るトマト
絵本を読むのも確か、好きだった

だが、妻は病弱で亡くなった。
残されたのは牧場と娘だけ

妻を失った哀しみでやけ酒を毎日のように飲んだ
きっと、リディアーヌは愛想をついたのだろうな…

ある日、彼女は手紙を残して去っていった
手紙の内容は

家出をした。探すな。

だけだった

たった1人の娘と縁を切ったと後悔した
後悔はしたが酒はやめて
リディアーヌが昔から好きだったトマトを育てはじめた…いつか、リディアーヌが帰ってきて
ただいまってまた元気な声で言ってくれて
トマトの料理をわしが作って食べさせて
美味しいって言って欲しかった

何年も何年も…
トマトを作りはじめては一人で食べた
いつか娘と2人で娘が好きなトマトを一緒に食べたい
その一心だけだった

だが、トマトをちょうど収穫し終わった土臭いある日
一通の手紙が届いていたんだ

リディアーヌ以外家族も友達もいない老人に
手紙は滅多にない

もしや、リディアーヌからのふるさとに帰ると報告された手紙なのかと 高鳴る胸を落ち着かせながら期待して開けたらそれは、リディアーヌが行方不明になったことが書かれていた

手紙によると
リディアーヌは嫁に行き子供を産んでいた
だが火事でリディアーヌ以外全員死体が見つかった
リディアーヌの死体は見つからなかった

わしはリディアーヌの知らない間の幸せも
リディアーヌの知らない苦しみも
見ていなかった

家出をされたのだから当たり前のことだろうけど
見たかった、孫もいただなんて思いもしなかった
やはり、あの時は探せばなにか変わっていたのかもしれないと 手紙を持つ手に力を込めて ぐしゃぐしゃにした

こんな手紙は期待していない

娘に会いたい。幸せな顔がみたい。

目元に熱い涙が溢れる

今度こそ、わしは独りだ…原因はわしのせいなのに
世の中が嫌いになりそうになった

またトマト料理を独りで作り
またトマト料理を独りで食べる

大きなテーブルで老人独り

それから、何日か経った
また手紙が届いた

リディアーヌの死体が見つかったのだろうか
それともリディアーヌは生きているのだろうかと

無我夢中で手紙を開けた

リディアーヌが魔女になったという報告だったんだ

喜べばいいのか悲しくなれいいのか
わしは自分の気持ちに迷子になった

娘は生きていた。だが、国民いや人類の敵となった
どうすればいいのかわからなくなった

それからは近所に噂されたり、国の偉い奴らが
家に来た

心の底では娘は殺されると確信した
だが、国の偉い奴らがなにも言って来ない
老人を気遣って言わないようにしていると思う

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「あと、医者に余命3ヶ月と言われてる…」

おじいちゃんの話はとてつもなく
悲しい話だった…心にじーんとくる

リディアーヌは本当に自分から魔女になったのだろうか
なぜか、そういう気持ちが増す

「だから、…娘を…娘を殺さないでくれ」
おじいちゃんは震える声で土下座をした
それは、一生懸命娘を助けたい父親の顔だった

「何十年も娘を見れなかった…だから…なんでもする…一緒にいる時間を消さないでくれ…お願いだ…」

私達は何もできない…政府に動かされ働かされた…
これからだって 魔女を何人も殺さなければならない

一人の老人の感情に流されてはならないと
心では思っているのだけれども

どうしても、心が痛かった

自分も家族を無くしたことがあったからなのだろうか
そうに違いない…

見れなかった分だけ生きていたら会いたいって思う
もう二度と独りになりたくないって思う

「カミル…みんな…どうしても、リディアーヌを殺さないといけないの?」

「ばかいうな…俺達はアリーヤに動かされて働いてんだよ…その命令を無視したら…裏切り同然だ」
だけど、カミルの顔は先程より険しくなかった

「第一、リディアーヌは…罪を背負っている…水晶を見たでしょ?だから…殺されないといけない魔女なんだよ…」
ハーマンは悲しそうな表情を浮かべた

「おじいちゃん…もう、土下座しなくていいよ…」
エラは手を差し伸べた

「…ごめんよ…こんなじいさんで…仕事なんだから…仕方のないことだもんな…」無理矢理笑うおじいちゃん

リディアーヌにはこんなに素敵な家族が1人いるのに
どうして、おじいちゃんのことを忘れて
魔女になったのだろうか…