複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編) ( No.16 )
- 日時: 2016/05/26 12:06
- 名前: 狐 (ID: q6B8cvef)
- 参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=image&file=196.jpg
その時、ひゅうっと、花弁を乗せた風が吹き抜けた。
子供は、目を閉じかけ、そして、再び前を見て、瞠目した。
離宮の扉から出てきたのだろう。
いつの間にか、子供たちの中に銀髪の女が佇んでいる。
(……シルヴィア・シェイルハート……)
全身を、稲妻が突き抜けたような感じがした。
血が通っているとは思えないほど白い、陶器のような肌と、絹糸を思わせる艶やかな白銀の髪。
音もなく現れた彼女は、間違いなく自分の母親——否、同類だと思った。
本当に美しく、綺麗な女だった。
だが、それを見た瞬間、子供は地面に縫い付けられたように動けなくなった。
子供が動かないことを不思議に思ったのか、アレイドがこちらを見て、駆け寄ってこようとした。
すると、シルヴィアが口を開いた。
「アレイド、行っちゃあ、だめ」
鈴のような声だった。
アレイドが、何故か問うように見つめ返すと、シルヴィアは薄い唇をほころばせた。
「あの子は、私の子供ではないの。だから、だめ」
「……でも、今日から一緒に住むのでしょう? 母上」
「あの子供が次期召喚師だと、父上も仰っていました」
続いて口を開いたルイスとリュートを、シルヴィアは包み込むように抱くと、笑みを浮かべた。
「……あの子は次期召喚師よ。でも、私の子供ではないの。ねえ? ルイスも、リュートも、アレイドも、あの子に近づいてはだめ」
三人の子供たちは、少し躊躇ったような表情を浮かべていたが、やがて頷いた。
それに対し、いい子ね、と呟くと、シルヴィアはついにこちらを見た。
まるで、氷のような微笑。
シルヴィアと目があった途端、ぞくぞくとした寒気が身体を巡って、震えが止まらなくなった。
この恐怖は、あの日、闇から声が聞こえてきた時に感じたものと、よく似ていた。
「ねえ、貴方。お名前は?」
尋ねられて、子供は必死に首を振った。
声を出すことは、出来なかった。
「あら……名前がないのねえ。でも、これから一緒に暮らすなら、名前がないと不便だわ」
そう言いながら、シルヴィアは立ち上がった。
そして、ゆったりとした足取りで、浮いているのではないかというほど軽やかに、子供の目の前に来た。
シルヴィアは、青白い指先をこちらに向けた。
「……それなら、貴方の名前はルーフェンにしましょう。古の言葉で、奪う者って意味よ」
銀の髪を揺らして、シルヴィアの唇が会心の笑みを浮かべる。
ここで初めて、自分はひどく拒絶されているのだと気づいた。
だって、こちらをじっと見ているのに、彼女の瞳に自分は映っていない。
シルヴィアは、ルーフェンではなく、どこか遠くを見ているようだった。
さあっと甘ったるい風が吹き抜けて、花園がさわさわと揺れる。
その草花のざわめきに不安を掻き立てられて、ルーフェンはごくりと息を飲んだ。
To be continued....