複雑・ファジー小説

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.22 )
日時: 2014/12/07 04:14
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: b/Lemeyt)
参照: ちょっと展開に迷ってる感がある……。てか話全然進まない……。

「では、そういうことで桐谷君、クラス:ボーダーへようこそ!」
「いやいやいや、待ってください! 俺一言も認めてませんし、体験入学どころか本当に入ったみたいになってますよ!?」
「うーん、この流れでもダメですかぁ。でも体験入学というのはいいかもしれませんよ? どちらにせよ、我々の傍にいてくれなければ君に憑くテレスさんをどうにかすることなど到底出来そうにもないですから!」

 ぐ……確かに何もしないままだったら現状は変わらないけど……。

「……戦闘とかはしませんよ?」
「あっははは、当たり前じゃないですか! 何も訓練していない状態で戦闘なんて、犬死しに行くようなものです。体験入学ではサポートについてもらいます。というか、とーっても安全な場所から眺めていてくれるだけでいいですよ。どうですかねぇ? デメリットはないように思えるのですが……」

 そうだけど、ニヤニヤと笑うニールさんがどうにも怪しいんだよなぁ……。どうかしましたか、と言わんばかりに笑顔のまま首を傾げてくるけど、多分俺の心の中なんて読めているんだろうな。

「が、害がないなら……で、でも、条件があります!」
「ほう、何でしょうか?」
「いつでも俺の独断と偏見で辞めさせてくれること!」
「全然いいですよ?」

 当たり前だ、というような感じでニールさんは肯定してくれた。反論する材料が見つからないんだけど……。
 それよりも、古谷が過去から逃げずに前を踏み出す姿を見て意地のようなものまでが俺の心の中に纏わりついてくるのだ。
 仕方ない。テレスが俺に憑いた原因はそもそも、俺が"百番目の魔術式"を発動してしまったからなわけで……せめて少しぐらいは責任持ってやろう、とか思ったりするわけで。

「決まりだね?」

 ニールさんはやはり俺の考えていることを読んでいるような、そう思わせるほど、言葉にしなくても答えを先に出してきた。


————


「改めまして。クラス:ボーダーの指揮官、ニールです。体験入学だとはいえ、よろしくね、桐谷 咲耶君」
「あ、よろしくお願いしま——」
「おい待て! そんな話は聞いてないぞ! ニール!」

 と、奥からずかずかと歩み寄ってくるその人物は、俺も見たことのある人だ。
 わしゃわしゃと豪快に綺麗な赤髪を掻く紅さん。しかし、その表情は少し怒ってる、のか?

「紅ですか。丁度いいところに来ましたね。紹介します、彼は桐谷 咲耶と言って——」
「そんなことはいくら私でも分かっている! ほら、あれだろ! 昨日一昨日ぐらいにここに紛れ込んできた普通科の学生だろ?」
「よく覚えていましたね」
「まあな! ……いや、そんなことよりだ! こいつの件はもういい! それよりも、何故勝手に魔装篭手を装着した!」

 さっき罵られたような気もしたんだけど、紅さんはどこか得意気に返事を……まあ気にしない方がいいか。

「あー……面倒臭いですね、相変わらず。ちょっと紅、こっちに来てください!」
「何だ? 何か文句でも……」

 とまあ、何だか分からないままニールさんと紅さんは少し離れた場所に移り、数十秒もしないうちに戻ってくると。

「ははははっ! 悪かったな! よろしくな、桐谷! 古谷!」

 どういう変わり様だよ。急に態度が一変したけど、ニールさんは何を言ったんだ?

「彼女は単純なんですよ」

 ニールさんは小声で俺と古谷に伝えた。なるほど、見た目のまま紅さんの頭は単純なのか……。

「そういえばお前ら二人……どっちも"谷"がついてるな! ははははっ! 谷コンビだな!」

 超絶笑えないが、これは笑っていた方がいいのか? 気分良さそうだし、一応愛想笑いだけ浮かべることにした。

「紅、自己紹介お願いします」

 仲裁を保つようにニールさんが指示を出した。助かった、このままこんな風に苗字の"谷"が重なっただけで弄られるのかと思うとしんどいところだった。

「おお、そうだったな! 私はクラス:ボーダーの教官兼リーダーでもある紅だ! 頭脳ではニールに任せているが、戦闘面では私になるな!」

 なるほど、そういう分けられ方してるのか。紅さんに指揮官なんてやらせると、一斉突撃とかしそうだもんな。

「で、次に……」

 と、ニールさんが隣に突っ立っているはずのロゼッタの方へ目をやる、がそこには彼女は律儀に立っておらず椅子にかけてまたしても分厚い本を読んでいた。本が好きなんだろうか、この子は。

「ほら、ロゼッタ。自己紹介は?」
「……ロゼッタ。よろしく」

 ただそれだけ。本から顔を逸らしてこちらを見たかと思うとそれだけを告げるとまた本を読み始めた。なんていうか、見た目が凄く美人で清楚な感じがある分、とても画にはなるのだが文学少女という雰囲気でもない。独特の世界観がそこには展開されているような気がした。

「まあ……彼女はいつもこんな感じだよ。ロゼッタは一応クラス:ボーダーの中では随一の能力を持つんだ」

 こんな静かな子が、ねぇ。あんな化け物を相手にしたらどうにも出来なくなっちゃいそうな感じするけどな。

「そして古谷 静君。まあ彼のことは分かるかな。先ほど見てもらった通り魔装篭手を使う。彼も入って間もないからサポートからだけどね」

 本当にこんな危険なものを自らやろうとしているのか、古谷。どことなく俺は不安げな気持ちを抱える中、古谷の決心した表情に揺るぎはない。復讐の為に、自分の命を削る。俺なんかでは計りきれないほどの決意がないと出来ないことだ。

「……さて、今いるクラスメイトの紹介は終わったけど、まあ他のメンバーはまだ数人いるんだけどね……中には勧誘中の生徒もいるんだ。桐谷君のようにね」

 俺のような人が他にもいると考えたらいいわけか。しかし、意外と少人数だ。もっと人数がいて、魔人を倒すのかと思った。だって、あんな化け物に対してだぞ? 燐でさえも不意打ちとはいえやられてしまったほどだ。Aクラスの他の連中でも相手が出来るかどうか怪しいところなのに……。
 そういえば、クラス:ボーダーにはどれほどの実力者が揃っているのだろうか。せめてあの魔人と戦えるほどの力がなくては話にならないわけだしな。

「他のメンバーはまた追々紹介するという形で……。あぁ、そうそう。活動自体は基本的に放課後。緊急の場合は授業中であろうとも連絡を送るよ。その時その場にいるメンバーで魔人を討伐する。基本的にはロゼッタや僕や紅は居るよ」

 そこまで話すとニールさんは俺の携帯の連絡先、古谷の連絡先などをいつの間にか登録済みにしてある携帯を見せ付けてきた。

「な、何で俺の連絡先を知ってるんですか!」
「一応これでも魔法学園の教官サイドの人間だからね。生徒の個人情報なんて頑張ればたやすく手に入るわけですよ」

 ニールさんは自慢げに言うが、それって職権乱用というものではないのか。
 そんなことを思っていた矢先、ふと小さく声が頭に響いた。

『……私は』

 何か言いたげな感じを醸し出しているテレス。いつもの調子ではないのは明らかだ。しかし、ニールさんが話を続けている為、テレスの相手をしている暇はない。

「ということで、魔人情報がきたらバシバシ送るから授業中でもなるべく抜け出して来るように!」
「あの……それっていいんですか?」
「あー、そうかぁ、二人は普通科の生徒だったね。それじゃあそうだな、適当に理由つけてバックれたら後は僕が何とかするよ」

 何とかできるものなのか……。適当に理由つけるのにも限度ってものもあるし、回数を重ねれば言い訳のしようもなくなってくるんじゃ……。

「そこは安心してくれたらいいよ」

 断言するようにニールさんは言うので多分大丈夫なんだろうけど。

「あ、それと。他の生徒には"絶対にクラス:ボーダーの存在を知られないようにすること"。これは二人共、守るようにお願いするよ」

 "絶対"と念を押すからには、それだけ秘密裏にされているということなのだろう。

「あと一つ。分かってるとは思うけど君達は普通科の生徒だ。普通科の生徒は魔法を使えないことを理由に入学を許可されている一面もある。もし魔法が使えることを誰かに知られでもしたら……退学になるから、そこらへんは気をつけてね」

 笑顔で忠告するニールさんだが、結構重要なことだ。でも俺は別に魔法を唱えることなんてないだろうし、どちらかといえばテレスと肉声で会話して怪しい人認定されないかが心配だ。

「桐谷君は魔法なんて人前で唱えないかもしれないけど、自覚しておいて欲しい。君は、もう"普通の生徒じゃない"。超人的な魔法を扱いきれてはないものの発現することが出来る人間なんだ。だからこそ、僕は君を勧誘したんだ。……それは重々承知しておいて欲しい」

 今度は、目元が笑ってなかった。なんともいえない気迫に圧されて俺は黙って頷くことぐらいしか出来なかった。
 自分で分かっているのか、分かっていないのか。自分の今の立場を考え、曖昧な気持ちを抱えたままで。少なくとも、俺じゃない力で、俺は魔法が使えて。……まさか、自分がこんなことになるなんて。
 色んな考えが廻るけど、今は考えたくない。とにかく俺は普通の日常を……そうだよ、普通の、日常を求めているんだった。

「……はい! それじゃあそろそろ解散しましょう! 放課後はここにまた集まるように!」

 ニールさんの掛け声で今日のところは解散となった。


————


 やばい。非常にやばい。
 忘れていた。なんてことをしてしまったんだ、俺は。
 時刻は既に一昨日帰った時刻よりも一時間半は過ぎていた。あまりに色んなことを説明されたせいで俺の頭が混乱していた。……いや、言い訳だ、そんなものは。ああそうさ、すっかり忘れてましたよ。——燐と帰りの待ち合わせしてることなんて!
 いよいよ燐と待ち合わせしていた場所へ辿り着く。あれは、まさしく燐だ。左手に桜の刺繍の入った太刀を抱えているなんて燐以外に見たことがない。
 これは決意を固めるしかない。一時間も律儀に待ってくれた鬼……——じゃなくて、燐に対して誠意を見せるしかない!

「ごめん!! 遅くなった!!」

 ズザァッ! と華麗な土下座スライディングで燐の目の前でばっちり決める。……沈黙。沈黙だ、超怖い。やばい、心臓が破裂しそうだ。これは殺される……!

「……ふぅ、やっと来たわね。帰りましょ」

 しかし、俺の思った通りではなく、軽快な足取りで土下座している俺の横を通り過ぎていく燐。あれ、怒ってるのか怒ってないのかいまいちよく分からないんだけど……。
 季節は春のおかげもあってまだ周りは明るい。とはいっても下校する生徒はもう全然いなくて、夕日も沈もうとしている頃だった。

「え、その……怒って、ないの?」

 思い切って聞いてみる。すると、燐は振り返る。その後ろには夕日の光が照らされ、燐の姿と桜の刺繍が入った太刀、全てが同化して——綺麗だった。

「別に? 早く帰ろ!」

 燐は笑顔で言った。その言葉から数秒、立ち上がることも出来なかった。

「……何してるのよ?」
「い、いや、何でもない」

 急いで立ち上がる。夕日が暮れようとしている。燐は、笑っていたけれど。どこか悲しそうな表情というか……。

「今日はカレー作るから、家片付けておいてね」
「え、俺の家で食うの?」
「当たり前じゃない。あんたも食べるでしょ?」

 しかし、そんな考えも燐の作る激マズカレーによって払拭されたのであった。


————


(咲は……本当は、どうしたいのかな……)

 小さなテレスの気持ちは、誰に聞かれることもなく、言葉にすることもなく、ただそこに零れただけ。
 咲にしか見えず、咲に憑くことでこの世界を視ることが出来る自分の存在。自分が何者なのか、そして咲はどうしたいのか。
 テレスは、抱え込んだ不安、そして孤独に苛まれていた。