複雑・ファジー小説
- Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.32 )
- 日時: 2015/03/17 02:15
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: nQ72gOzB)
- 参照: 話がややこしくなってきたような……。ようやく更新です;
俺としては、初めから目的は一つだったはず。俺に憑いた謎の魔力生命体(?)である少女、テレス・アーカイヴと切り離してもらうこと。
しかし、何となくその目的は不透明になっている気が自分でもしている。それは自ら本当に望んでいるのかさえ迷っているといっても過言じゃないと自負してしまっているからだ。
最初は巻き込まれた、俺は被害者だという印象が強かった。しかし、最近になって思い始めてきた。俺は、俺に憑いているこの少女に関して"誤解"をしている、と。
色んな考えが駆け巡るが結局のところは何も分からず仕舞いに終わる。そういえば、燐のこともあるな。どうしてあいつは今日の朝起こしてくれなかったんだろう。あの魔人の事件以来、俺は疑問に思っていた。
第一、あの事件に関しても学園側は何も言ってこない。巻き込まれたことも無かったことにしようとしているかのように。後から聞いた話だが、クラス:ボーダーによって処理した事件は全てニールさんが後始末をするらしく、ほとんどの場合学園側から接触してこないとか。
(何だかここに入学して以来、俺は平穏な生活を求めたはずなのに、いつの間にかわけの分からねぇことに巻き込まれてるな……)
古谷のこともそうだし、テレスのこともそうだ。古谷はあんな過去があるとは知らなかった。気軽に人に言えるようなことでないとはいえ、普通科の生徒にそんな人間がいるということさえも驚きだ。
テレスも、何だかんだでこうして共同生命体の如く一緒に活動しているが、結局俺に対してどうしたいのかハッキリしないままだ。あの魔人の事件以来、どうも引っかかる。
これらのこと全てが運命付けられたかのように必然のようにも思えて。何だか、とても偶然とは思えない……むしろ誰かに仕組まれた、何て——
「ま、そんなわけないか」
と言葉を吐いた最中、俺の服が後ろから引っ張られて身体ごとビンッと一気に後ろへ持っていかれる。
一体何だ、と後ろを振り向くと、そこには銀髪の髪をした少女。相変わらずの無表情のロゼッタがそこにいた。制服姿には当然のように普通科、魔法科どちらの学科の刺繍も入っていない。これで校内歩いてたのか、ひょっとして。怪しまれなかったのか心配だ。
「……来て」
「え、え? いや、ちょっとまっ——」
ぐいっ、とそのまま引っ張られたかと思いきや、連れて行かれそうになるのを何とか堪え、声を絞り出す。
「一体どうしたんだよ!?」
そこで一旦止まり、俺の方をちらりとロゼッタは見る。その目は大きくて、とても綺麗な瞳をしていた。見れば見るほど、吸い込まれそうになる。
「"敵"が出た」
「へ?」
目に惹かれていた俺は情けない声を出してしまう。しかし、それが俺のクラス:ボーダーとしては初めての魔人出現のお知らせだったことに気付いてから急に顔が青ざめていくのを感じた。
—————
いきなりすぎる知らせに戸惑う暇もなく、急遽俺とロゼッタはアンノウンへ急行した。といっても、俺はアンノウンに元々寄るつもりではあったので近くだったわけだけど。
アンノウンにはニールさんと紅さんが既に待っていた。
「あ、来ましたね。古谷君はもう準備してますよ」
あいつ、いつの間に……。そう思っていた矢先、奥の方から古谷らしき人影が見えてきた。
その格好は先ほどまでの普通科の学生服ではなく、それによく似たデザインながら、見た目はとてもスタイリッシュで動きやすそうな印象の受ける服に着替えていた。
何回も左手をグーパーグーパーと繰り返し、颯爽と登場してきた。
「とまあ、古谷君用のスーツみたいなものです。この方が彼の左腕を機能しやすいかと思いまして」
へぇ、何だかすげぇな。とか他人事のように思っているのは勿論俺は戦闘に参加しないからだ。そういう約束だったし。
「出現したのは力の弱い魔人です。桐谷君達が出会ったあの魔人よりも力は弱いですね。ただ、魔法を使えない人々にとっては危険性が極めて高いので処理します。それもこの魔人、そういった人々の暮らす方面へ向かっている形跡がありますので」
「あの、力が弱い魔人ってのは……」
「ああ、イメージが出来ないか。んー、みーちゃんよりも弱いだろうし、そこらの犬とでも思っておけ!」
そんなアバウトな……。そんな犬程度でも魔人って存在するものなのだろうか。
「紅のはあまりにアバウトすぎて参考になりませんが、犬ほどではなくても力を持たない人に対しての殺傷能力は極めて高く、戦う術を知らない人々では相手になりません」
つまり、テレスの魔力がない俺は木っ端微塵にされるというわけだな。なるほど分かりやすくて危険な香りがこれでもかというぐらい匂う。
「軽い相手なので、古谷君の丁度良い練習相手にもなるでしょう。ロゼッタはサポートにまわってもらいます」
「ショボい相手には気が乗らんからな。私は観戦させてもらうぞ」
なんつー理由で休んでるんだこの人。紅さんらしいっちゃらしいけどさ。
「魔法学園より北方にある都市へ向かっているようです。この様子だと、捕食する為でしょう。完全に"魔人本来の姿"で走行しています。魔法学園は荒廃地区から都市部を守るようにして出来ているので、関所を突破しなければいけませんが、恐らくこの間桐谷君たちが襲われたあの関所を通行して出てきてしまったのでしょう。壁の修理の手続きの間に運悪く通過されてしまったようですね」
「まったく、見張りの魔術師ぐらいつけてくればいいのにな。処理するのはこっちだというに」
説明を聞きながら、俺は何となく荒廃地区やらの"仕組み"について思い出した。
世界各地に魔法学園は存在するが、その設置場所はどれも荒廃地区から魔人が人々の住む都市部を守るように形成されている。力を持たない人々に襲い掛かる前に魔法学園がどうにかするという感じだ。
荒廃地区への隔たりはこの間俺が通過したように白い巨大な壁によって分断されている。これには特殊な魔法がかけられており、魔人に対しての一時的な結界のようなものだ。普通ならば早々と破壊されることはないのだが、壁に魔法をかける魔術師の力に応じて壁の力も相応となる為にそれよりも強い魔人がいれば壊されてしまったりもする。
その修復と見張りは派遣されて当然のことなのだが、今回は突然のことであったので申請が遅れているらしい。
そこで思い出したが、確か対魔人を相手にするのは何もこんな秘密裏にやっていることじゃなかったはず。ちゃんとそれ相手に認められた者たちがいて……名前は——
「それって、"シュヴァリエ"のことですか?」
俺よりも早く古谷が口を挟んだ。
シュヴァリエとは魔人を相手にする特殊部隊と聞いたことがある。魔法学園の主に高学年が担当していて、その中でも特に優秀な成績を持つ者にしか所属は許されない。先ほど言った壁の見張りを勤めるのは彼らの責務でもある。
公に魔人を相手にしていると公表しているのはシュヴァリエで、彼らは世間一般では良く知られる部隊なわけだが、魔人による被害等がそもそも都市部に至るまでに出させないことが目的なので一般市民には名前だけが伝わり、魔人は存在する"らしい"というぐらいの認識だった。少なくとも、俺はここにちゃんと入学するまではその認識だったな。
「はい、そうですよ。彼らは魔人を相手にする部隊です」
「それだと、クラス:ボーダーと目的が被るんじゃ……」
「大雑把な括りで言えば、な。公に公言出来るレベルがその程度、といった方がいいのか……」
おお、何だか紅さんが難しいことを言っているぞ?
「とにかく、我々の目的はシュヴァリエたちと同じではありません。強いて言うならば、彼らは"魔人を相手にする"のであって、我々のように"魔人を殲滅する"のではありませんから」
「それって、ほとんど一緒のことじゃ……」
「ふふっ、言いたいことはだんだんと分かってきます。それよりも、今回は我々が実際に相手にしなくても、シュヴァリエでどうにかなるような相手です。だからこそ、古谷君の初陣にさせました」
そこまで言うと、ニールさんはいつものように裏のありそうな満面の笑みを浮かべると、
「とにかく、出撃しましょうか。——いざ"初陣"にね」
—————
ただ家畜を呼ぶだけ。そうするだけで、今日の"飯"が自分から現れる。魚釣りのようなもので、エサにかかるが如く、獲物は現れるだろう。
何より、抵抗もしない人間を隠れていたぶり、痕跡を残さずに食うのも飽きた。より強く、より鬱陶しい存在を自ら血祭りにあげ、その甘美な旨みをこの舌の上で味わいたい。
ああ、待ちきれない待ちきれない。いつになれば来るのだ。早くかかってくるが良い。何度でも、何度でも味わいたくなるその味を。私は早く再び、この口の中で味わいたいのだ。ゆっくりと、唾液で溶かすように、私の存在がそれによって昇華するように、私の感情も高ぶるのを止められないあの"情動"をもう一度——
「これだから、人間は面白い……!」
姿形は誰が見ても人間と答えるだろう。
だが、その瞳の奥に妖しく光る"それ"はまさしく怪物。人食い。化け物。何に例えようとも、それはおぞましい。
作られた平和の中に潜む恐ろしい狂気がそこにはあった。