複雑・ファジー小説

Re: 落ちこぼれグリモワール ( No.37 )
日時: 2015/06/12 14:57
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: 最近少しずつ更新出来ていっているぅう。……頑張ります;

 嘔吐物に塗れた地面。その被害はファフニールの足元にまで及んでいた。
 丁度桐谷 咲耶こと俺が嘔吐物を撒き散らしながら乱入した先にはどの時代の貴族だよ、と思わずツッコミたくなるような服装をした金髪頭の胸糞悪くなるぐらいのイケメンがいて。
 その足元ぐらいに古谷が驚いた顔で俺の名を呼んでいた。なるほど。この一瞬で分かるぞ? これはまさしく窮地だったわけだな。そこに俺が颯爽と——

 そこで、俺の視界が突如埋められる。嘔吐は止まったが、まだ気分が悪い。そんな中、俺の嘔吐物が付着したスーツが現れたのだ。いや、自分のものであってもやっぱり不愉快だな……。

「……よくも」
「え?」

 見上げれば、それはまさに憤怒の如く。せっかくのイケメンが台無しになりますよ、と声をおかけしたいぐらいの凄まじい形相を滲ませた金髪貴族が手と声を震わせながら俺を見下していた。

「よくも私の自慢の衣装をぉおおっ!!」

 グルグルグルと低い音を立てて男の右手が暴発するかのように黒い炎で渦巻いていく。これはやばい、と瞬時に察知した俺は逃げようと後ろに退いたその瞬間。

「いい加減、そこをどけぇええええっ!!」
「ぐぼほっ!!」

 ……が、俺の意識は前蹴りを喰らったことで一瞬吹き飛ぶ。なおかつ、またしても紫色の光が現われて俺を衝撃以外の"何か"で吹き飛ばしたこともあり、非常に俺としては死にそうなレベルで痛い。
 何かと思えば、男装女子の蹴りが俺にクリーンヒットしていた。それまで男装女子をクッションのようにしていた俺は別目線から見ると押し倒しているようにも見えたわけで……俺の口から零れた嘔吐物を避ける為にも男装女子の行動は必然だったのかもしれない。
 しかしまあそのおかげでキレる貴族風の男から難を逃れたわけだけど、それだとあの男装女子が俺の代わりに黒い炎の餌食に……! と、思ったわけだが何故か貴族風の男は黒い炎をやめ、むしろ驚いたかのように目を見開いていた。

「な……! その紫の光。そしてこの魔力の波長……。これならば魔境を破壊してきたとしても納得……。まさかこのファフニール、怒りのあまり目の前の"異例な存在"に気付かなかったとは!」

 この男の名前はどうやらファフニールというらしく。少女の例の"ロクでなし"の能力に驚いているようだった。その間に男装女子は立ち上がるが、ファフニールの様子を見るや否や、顔色がどんどん青ざめていく。

「もしかして、本物の魔人……!?」
「うん……? 何だその反応は? ……もしかすると、貴様、まだ"その力"を理解して使用していないというのか……!?」

 何かに勘付くように言葉を呟いていくファフニール。そして本物の魔人だと知り、後を退く俺はというと、ようやく起き上がることが出来たと思いきや、紫の光の副作用だか何だか知らないが、身体に若干の痺れを感じていた。

『大丈夫!?』

 心配するような声で語りかけてくるテレス。しっかし、やっぱりテレスに反応していると見て間違いなさそうだけど、テレスは何ともないのだろうか。

『私は大丈夫だけど……』

 テレスには何も異常はないらしい。身体を持ってる俺だけ何でこんな目に遭ってるんだよ。不公平じゃね?
 そんなことを思ったりもしたが、何となく少女のピンチを感じ取る。といっても俺が近づいたらまたあいつの能力で吹き飛ばされそうな気がするんだけどな。

「でも、行くしかないだろ!」

 と、ダッシュする俺だったが、それは杞憂だといわんばかりに上空から彗星の如くロゼッタがファフニールの頭上を目掛けて氷槍を突き刺した。直後に凄まじい衝撃と煙や轟音。それらのせいで果たしてロゼッタの攻撃は上手くいったのか定かではない。
 煙は一瞬で解かれたかのように霧散し、そのわずかな間にロゼッタは少女を抱えて後ろに跳んでいた。

「ぅわっ!」

 少女はその勢いでよろけながらも地面に着地する。ロゼッタはというと、その最中にも再び駆け寄って来る大型の犬を相手に……って、何だありゃぁっ!? 二人が倒したはずの犬の魔人の何倍もでかい奴等がウヨウヨいやがる!

「邪魔ばかりしてくれますねぇ……!」
「……魔境は解かれた。すぐにでも異変を察知して魔法学園から応援が来るはず」
「全く、群れるのだけは得意なんですから……。しかし、猶予はある。それも、戦果をあげれずに帰るのも癪なのでね!」

 と、古谷に目を向け——ずにまさかの俺だった。

「あの無礼を犯した男をまず殺すとしましょうかね!」

 そりゃこの中では俺は一番弱いんじゃないかとも思うし、そりゃ狙われるかもしれん。けど……そんな嘔吐物に対して怒られても知らん。それに関しては俺は悪くない。むしろ、それはニールさんに向けて怒れといいたいぐらいだ!

「させるかぁっ!」

 古谷が銃口から風による魔弾を連射するが、ファフニールはそれらを難なくと避け、尚且つ大型の犬の魔人を古谷に出向かせる。

「負け犬はそこで待っていろ!」

 やばいやばいやばい、こっち来るよあいつ。どうする、どうすればいい。俺に何が出来る?
 一人じゃ何も出来ない。そんなことは分かってただろ。それでも俺はここに来た。それは——助けたいと思ったからだ。どれだけ危険だろうが、どれだけ不安だろうが、関係ない。
 そこに意思と動く手足があるのなら、必死で助けてやるのが落ちこぼれなりのモットーだから。

「テレスッ!」
『な、何!?』

 突然話しかけられたことで驚きを表すテレス。最近様子がおかしいテレスは一体何を考えているのだろうか。別に俺が知ったところで、どうにもならないとか、色々とわけわかんないことばっかり考えて聞かなかったけど、それじゃダメだ。それじゃあ、俺と一緒に戦ってくれない気がした。

「一体何を考えてる!」
『……え? それは一体どういう——ッ、前!」

 テレスの言葉に合わせて前を向くと、すげぇ形相と速度でファフニールが右手をあげてこっちに向かってきていた。

「死ねえええええ!!」
「誰が死ぬかあああ!! 足掻くわああああ!!」

 わけのわからないまま返事をし、俺は全速力で避けることに専念する。

「うぉぉおおおっ!!」

 ファフニールの低い唸り声とその手が地面に激突するのはほぼ同時だった。激突した瞬間、黒炎が柱のように立ち上り、その一面の地面に焦げ跡と爆砕を発生させ、避けきったかのように思えた俺はそれに呼応するように発生した熱風によって吹き飛ばされた。
 背中から地面にバウンドし、引きずられる。せっかくの制服が台無しだ。普通科といえど、魔法科と同じように制服は耐性が備わっているが、普通の生徒の制服ということもあってか魔法科よりも耐性が弱いらしく結構な衝撃と共に痛みも奔る。

「ッ、話の続きだ! テレス、お前最近何かあったのか? 最近のお前はらしくないというか……」

 そんな中でも俺はテレスに話を再開する。ファフニールがこちらをギロリと睨んできた。すげぇ怖い。それよりも犬の魔人がさっきよりも多い気がしないでもない。俺にだけ襲ってこないのは、ファフニールが自ら相手するからなのかはわからないが。
 とにかく、こんな土壇場でどうして俺もテレスに聞いたのか。もっと聞くチャンスはあったのに。それは俺が——テレスに遠慮していた部分が大きい。何せ、こんな落ちこぼれの身体と一心同体みたいなことになってしまったことは、そもそも俺があんな魔法を唱えたからだ。まさか発動するとは思ってもみなかったが、結果としてこうなってしまっている。本来なら、もっと強くて優しい……燐のような存在に拾われるべきだった。それが、出来損ないの俺で。

 だから、俺は"落ちこぼれ"のままでいようと。俺はこんなにも弱いんだと。その拒絶から、落ちこぼれの劣等感から俺はテレスを遠ざけていたのだった。期待されて、失望されるのはもう、慣れていたから。俺だからこそ、聞けなかった。
 でも。それでも。紅さんに言われた言葉や、ニールさんに言われた言葉が俺の中を抉る。本当は、魔法を使えることは嬉しかった。それも、若干微妙ではあったけれど、燐たちを助けることが出来た。それが、何よりも。俺のしょうもない劣等感よりも、テレスと二人でやれたらいい。だから、このタイミング。この土壇場の、逃げようのない場面で。

『それは……』

 テレスが気まずそうに一言。な、何だ。何でも言って来い。今の俺なら全然! な、何でも受け止めれる気がしないでもないけど無理な気がするぞ!

「随分と独り言を喋る余裕があるのですねぇ……」

 ピキピキ、とファフニールが血筋を浮かばせてこちらにゆっくり歩み寄ってくる。こりゃ、ゆっくりと会話もしてられん。

「つっ……!」

 起き上がろうとしたら、背中の痛みがじわりと響く。くっそ、力が上手く入らねぇ。これは本格的にやばいな……。

「まあ、いいでしょう。安心してください。貴方のお仲間は皆必死に私のしもべと戦ってますから。君のお仲間の"彼女"といえど、私の魔力を練りに練った固体ならば少々時間がかかることですし……」

 ペラペラとよく喋るやつだな……。正直耳に入ってこねぇ。それよりもテレスの言葉が気になる。
 土壇場で聞いた俺も悪いな。なら、そうだな。俺はお前よりも先に俺の気持ちを告げることにしよう。その方が、手っ取り早い気がする。

「お前が今、何を思っているのか分からない。けど、俺は……お前の力が必要だ。テレス」
『……!』
「お前が何者で、お前がどういう存在なのかも分からない。けれど、お前が綺麗な銀髪をしていて、女子ですって感じの容姿をした女の子ってことは十分に存じ上げて——」
『い、一体何を言っているの……?』
「……すまん、最後の方は忘れろ。とにかくだ。要するに——」
「ごちゃごちゃと人を無視して独り言をするなぁっ!!」

 未だに力が入らないのって、なかなか貧弱だな、俺。それでも構わずに俺に向けて振るわれるファフニールの黒炎に包まれた腕。一瞬の内に溶けるのかなぁ、何て思っていたら。
 バキバキ、とそれはガラスが砕け散るように紫色の光に包まれて消える。ファフニールの腕に手をかざす一つの手は白く細く、か弱い少女の手だった。

「おのれぇ、"破魔"の小娘ぇっ!」

 あの男装女子がファフニールの魔法をまるで破壊するかのように無力化させていた。

「何がなんだか分からないけど……そいつは私の客だから、手出しさせない!」

 声が震えているのが分かった。彼女は目の前の存在に怯えている。人ではない、異端の存在に。
 その彼女を睨み、ファフニールはいとも容易く彼女を捉える。

「ふんっ、貴様如き……魔法さえ使わなければよし!」
「っ、うぅっ!」

 ファフニールは男装女子の首を片手で掴み上げ、上に軽々と持ち上げた。足が浮き、本格的に少女の首元が絞まっていく。

「黙ってみておればいいものの……自ら死に急ぐとはなぁっ!」
「ぁ……ぅう……ッ!」
「おい! やめろ!!」

 ギリギリと力が入っていくのが分かる。このままじゃ、殺されてしまうということも。苦しんでいく少女は弱弱しく、体から力がだんだんと奪われていっていることが様子を見ているだけでも理解出来た。
 何とか、力を入れて立ち上がる。やるしかない。俺しか今、助けることは出来ない。いや——"俺達"しか!

「頼む、テレス! 力を貸してくれ!!」

 その瞬間。重低音、そして魔法陣が何重にも俺を、全身を包み込んでいく。

『——勿論っ!』

 明るい返事。それは前のテレスに戻ったかのように。俺の答えを聞いて、晴れ晴れとしたかのように。
 一瞬、自分の中に"何か"が雪崩れ込むような感覚が全身を駆けて行くような気がした。果たしてそれが何かは分からないが、それは自分の力となり、また戦う為の糧となるような予感がした。
 踏ん張らないと入らなかった力は自然と湧き上がっていく。軽々と身を起こし、両足でしっかりと地面を踏む。

「何だ……? この魔力は……!」

 男装女子の首を絞める力を緩め、地面に離す。咳き込んでいる彼女には目もくれず、ファフニールは俺を見ている。
 まるで違う。そう思わせたのは、どこかテレスと心の通いがあったからなのか。これが魔力というものなのか分からないが、今ならやれそうな気がする。

「さっきはよくもやってくれたな、このやろー。……次は俺の。いや……"俺たち"の番だ」
『そうだそうだ、このやろー!』

 落ちこぼれ、調子に乗る。テレスもまた、調子に乗る。


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【あとがき】
っと、ごめんなさい! あとがきと称して告知をしたいと思います!
参照が1000到達いたしましたら記念にオリキャラ募集をしたいと思っています! 考えているのは、結構厳選するような感じになると思うので全部採用! とかじゃないことだけお伝えします。落選になった理由等は書かず、完全に僕個人の独断と偏見でオリキャラを選抜いたしますのでご了承ください……。

ちなみに、募集するオリキャラの枠というか立ち位置ですが。
「クラス:ボーダーのレギュラー枠(物語に頻繁に登場する)」が一名(良いのがあれば増えるかもしれません)
「魔法科クラスの生徒(今回は燐と同等のAクラス級の生徒&もしかしたら燐と同じ部隊入り)」が一名(こちらも増えるかも)
「魔法科クラスの教官」が数名(数は未定)
「魔人&凶悪犯罪者(魔人、凶悪犯罪者は魔法を使用する)」が数名(数は未定)

以上! これらのメンバーを募集したいと思います!
ゆっくり厳選したいのでそれぞれ期間等も設けたりとか、色々と小細工してやっていこうかなと思います。
また、自分のいつもながらのことなのですが、オリキャラ本募集の方に関しては【新:リク依頼掲示板】の方でさせていただきます。
なので、こちらのスレで投稿されました方は吟味する余地なく落選&削除していただきます。

詳しい説明はまた本格的にリク依頼掲示板で立てた時にそちらで書かせていただこうかなと思います!
このような駄作にオリキャラを与えていただけることを楽しみにお待ちしております!

以上、駄犬こと遮犬より告知でした!
引き続き本編も宜しくお願いしますっ;