複雑・ファジー小説

Re: 落ちこぼれグリモワール 本編更新&告知! ( No.39 )
日時: 2015/06/24 18:23
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: 事情により#8と#9連続してお読みいただくことを推奨します!

 どこかの映画で見たような、格好良く指でクイクイっと手招きをするあれをやりながら俺も再度思う。何で俺こんなに自信あるのかって。
 特に魔法を使えるということもないし、テレスが上手くやってくれたから俺の右腕どころか全身が消失しないで済んだのに、俺ってやつは有頂天になってるんじゃなかろうか。

「ふふ、まあいい……。何故貴様が我が主たる魔力を持っているのかは知らんが——どれほどの者か、試させてもらおう!」
「ッ!」

 蹴り、だ。相手の足が瞬時に動いたと思いきや、俺の顔面に目掛けて蹴りを放ってくる。分かる。いや、分かったと認識を脳が訴えるまでに、俺は既に姿勢を低くしてその蹴りを避けていた。
 続いて、どこぞの格闘ゲームみたいに低く相手の懐に飛び込み、顎に目掛け拳を高く突き上げる。
 それはまるで、"俺じゃないみたい"だった。

 軽々と俺の拳はファフニールの顎を捉え、鈍い音と共にファフニールは上空へ軽く吹き飛ぶ。そのまま倒れ込むかと思いきや、ギロリとファフニールは俺を睨みつけ、有り得ない速度で"何か"が俺を襲いかかろうとしてきた。
 先端が鋭く尖り、なおかつノコギリのように刃を帯びた鞭のようにしなるそれはファフニールの背中から射出していた。それが俺の首を切断する——前に、突然空から降って来た存在にそれは阻まれる。
 その姿は銀髪を光らせ、黒い槍を携えたロゼッタだった。

「……させない」

 ギリリ、と黒い槍を引き裂かんと触角は引くが、黒い槍は切断されるどころかビクともしない。火花が辺りに散り、相当な衝撃を物語っているがそれを受けているロゼッタはその場から全く動かない。

「チィッ!」

 諦めたのか、舌打ちをするように言葉を吐き捨てたファフニールは触角を黒い槍から離し、その衝撃の反動で後ろへ高く跳躍して退いた。

「犬の魔人はどうなって……!?」
「今、終わった」

 ロゼッタの言葉とほぼ同時刻に風が空を切るような音と、地響きと共に何かが倒れる音が聞こえる。古谷が息を乱しながら満身創痍で恐らく最後の犬型の魔人を倒しきった様子が窺えた。
 しかし、古谷はあれだけボロボロなのに、ロゼッタは傷一つついていないし、息も乱れていない。圧倒的な数に襲われていたのはロゼッタの方だってのに……。

「……遅れて、ごめん」
「え? あ、いや……」

 今ロゼッタから謝られたのか、と認識していても言葉が出てこない。逆に助かっているぐらいだ。俺が助けに来たはずなんだけど……まあ役に立たないことは分かっていたんだけどさ。

「……潮時か。まあいいでしょう。今日の獲物がとれなかったことは残念ですが、"収穫"はあったようですから」
「おい! 逃げる気——!」
「そこまでだ!!」

 突如遮った声が響き渡る。声の方を見ると、魔法学園によく似ていながらも黒色の制服を着た人物が6,7人ほどいた。それぞれが普通科でも魔法科でもどちらでもないことを示す特殊な紋章エンブレムが刺繍として制服には入っており、尚且つ彼らは特殊な腕章を左腕につけていた。

「"シュヴァリエ"だ……!」

 いつの間にか俺達の傍まで駆け寄ってきていた古谷が息を切らしながらもそう呟いた。
 シュヴァリエ——魔人を相手とする魔法学園の中でもエリート中のエリートと名高い特殊部隊の一種だ。彼らは皆上級生の中から選抜されて結成されており、凶悪犯罪者を相手にする他にも魔人をも取り扱っている。
 ロゼッタの言っていた助けというのは、ニールさんたちのことじゃなくてシェヴァリエのことだったのか。

「大丈夫ですか?」

 シュヴァリエの中の一人が駆け寄ってきて俺達に声をかけてきた。気付けば既にファフニールの姿は無く、そこらで骸となっていたはずの犬型の魔人も存在を消したかのように消えてなくなっていた。
 駆けつけるのが遅いとは思ったが、それでも助けに来てくれたことは事実だ。素直に礼を言うことにする。
 
「あの、ありがとうございました」
「いえ、それはいいのだけど……貴方、普通科の子……? どうしてこんなところに……」
「えーと、それは……」

 これって何て言ったらいいんだろう。クラス:ボーダーはシェヴァリエにさえ秘密にしていないといけない部隊なのだろうか。とはいっても、この状況ではこの期に及んでどういう言い訳も通用しそうにない。諦めて俺が理由を説明しようとした時、シェヴァリエのお姉さんは俺ではなく、その隣に立っていたロゼッタに気付いて表情を変化させていった。

「え……!? まさか、貴方……ロゼッタなの!?」
「………」

 シュヴァリエのお姉さんはロゼッタに対して驚いたように声をあげた。何だ、知り合いなのだろうか。
 ロゼッタは黙ったまま、数秒その場で停止していたが、すぐに男装女子の方を指で示すと、

「魔人に直接触れられたせいで、魔力が混乱している。早く、学園へ連れて行ってあげて」

 ただそれだけ言い残すと、服の中から端末を取り出してどこかにかけると、それを俺に押し付けるようにして渡した。

「えっ、何?」
《あ、桐谷君?》

 俺の質問とシュヴァリエのお姉さんを無視してロゼッタはその場から立ち去り、俺はというと端末から聞こえてきたニールさんの声でどういう目的でこれを渡したのか分かったような気がした。

「そんなすっ呆けた感じだしても意味ないですよ……」
《あ、やっぱり? それじゃ聞くけど、"ちゃんと話し合えた"?》

 何でもお見通し感がやばい。ニールさんは俺とテレスが話す場として戦場を選んだってことなのだろうか。それは全て、俺の劣等感を把握しての行動。
 そして何より、ロゼッタにもう一つ通信機器を持たせていたということは、不測の事態にしっかり備えてもう一つ通信機器を忍ばせていたってことにもなる。どうやら通信状態でなければ端末は壊れることがないみたいだ。

「一応、テレスとは……そうですね、和解できたような気がします」
《うん、なら良かった。多少強引だったけど、君達の関係は切っても切れないような関係であるからね》
「え、それはどういう……」
「君、あのロゼッタとはどういう関係なの? それに、貴方は誰と……」

 シュヴァリエのお姉さんが物凄く問い詰めてくる。これどうするべきだろう、と思っていた矢先だったが、そのすぐ後ろからとある人物が歩いてきて、お姉さんの肩を叩く。

「質問責めをする前に、彼らは疲労していたり怪我をしているのだから、まずはそちらを優先すべきではないかしら?」

 その人は俺の見覚えのある人だった。

「こ、これは白井教官! 失礼しました!」

 シュヴァリエのお姉さんは敬礼するようにして姿勢を正し、お辞儀してその場はすぐに去っていった。白井ユリア教官——俺と燐が初日にお世話になった女の教官だった。
 その特徴的な金髪の長い髪を揺らし、ふふっと妖艶な笑みを見せて俺を見つめる。

《……白井教官かな? ご無沙汰してます》
「やっぱりニール博士ね? ……ということは、ここにいる子達は皆クラス:ボーダーということで構わないわけね?」
《えぇ、そうですね。これからお世話になることがあると思いますが、どうぞ宜しくお願いします》
「あら、礼儀正しいのね。魔人退治のスペシャリストを率いる黒幕さんは違うわぁ」

 俺から聞いても実にわざとらしい物言いをしていた。白井教官とニールさんの関係はいまいち分からないが、俺の手に持っている端末越しで話すのはやめて欲しいと思う。

《……それよりも、彼らは"巻き込まれたんです"。休ませてもらえませんか?》
「そうね。"シュヴァリエの活躍"によってこの場を治めたのだから」
「え? それってどういう——」

 俺が口を挟もうとしたところで、古谷が俺の手元から端末を奪い、白井教官に渡す。

「それでは、失礼しますっ!」
「ちょ、おい!」

 古谷が俺を引っ張る。何が何だか分からないままその場を後にすることになってしまった。


 その後、無言で白井は咲たちを見守った後、また端末越しに話す。

「それじゃ、お疲れ様」
《待ってください。……"あの少女"をここに呼び寄せたのは、やはりシュヴァリエの介入の為ですか? それとも……》
「ふふ……無駄な詮索はお互いの為にならないわよ? ニール博士」
《博士の名で呼ぶのはやめてください。今はただ、アンノウンに住み着く寄生虫程度ですから》
「謙遜は自分の為にもならないわよ? ……ふふ、それじゃ」

 プツ、と通信が途絶えた。


—————


 その場が収拾されていく様子を遠くから見つめるファフニール。表情はまるで楽しみが増えた、と言わんばかりの笑みを零していた。

「"キリタニ"……。面白い存在だ、ふふふふ……。必ず、またお前の元に現われるぞ……」

 その後骨と骨が軋み合うかのような音、そして粉々に割れてはくっつくを繰り返し、身体は変形していく。やがてファフニールは一匹の黒猫の姿になり屋根の上を駆け、白い壁の向こう側へと走り去っていった。

 そしてもう一方。その様子を確認していた存在がいた。

「あれか。例の……魔力を持っている魔法学園の生徒は」

 まるで獲物を発見するかのように、アスクレピオスは呟いた。
 赤色の瞳を真っ直ぐ、古谷に引っ張られる桐谷 咲耶へ向けながら。





第4話:落ちこぼれの劣等感(完)

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【あとがき】
またあとがきします! すみません!
第4話の#8と9ですが、これ元々は一緒になって7000文字強ぐらいの量で#8として載せるつもりでした!

……が! しかし! いつもの修正して文字数増やすやり方が出来なくなっておりまして、4000文字制限を喰らった為に展開の区切りがめちゃくちゃなことになっちゃってます;
なので二回続いて更新にもなっちゃいました! 更新分は#8からになりますので、#9だけ読んで「は? 話飛んでね?」って思った方は#8もお読みください!;

そのことをお詫びする為、このようにあとがきを載せさせていただきました!
仕様が今いち分からないので、またこのようなことが起こるかもしれませんが何卒、よろしくお願いいたします!