複雑・ファジー小説

Re: 落ちこぼれグリモワール 4話完結しました! ( No.40 )
日時: 2015/07/03 01:58
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Nw3d6NCO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=129

 白を基調とした殺風景な部屋。それはどことなくアンノウンの内部によく似た構造をしている。
 どことなく見覚えがあって、尚且つ自然に"恐怖"を抱くこの感情——それは目の前にいる"見慣れた少女"から抱くものだった。

「よ、よう」

 その人影に声をかけてみる。とりあえず何を言ってくるんだろう、と興味もありつつ恐れていた。こっちは仮にも満身創痍だ。今回ばかりは手厚い歓迎を受けるものとばかり思っているんだけど……。
 俺の前には、親愛なる幼馴染である燐が立っていた。黒髪が垂れているせいで表情も分からないし、一言も喋らないのでどういう感情でそこに立っているのか俺には到底理解できない。
 さあどっちだ。天国か地獄か、どちらかしかあるまい。準備は出来てるぞ!
 
「……まあ」

 く、来るか……!?

「死んでないなら、いいんじゃない?」
「……お、おう」
「うん」
「……それだけ?」
「はぁ?」
「い、いや! 他に何かあると思うじゃん!?」
「何かあって欲しいの?」
「別に、そういうわけじゃないけど……」

 何も音沙汰がないっていうのも、調子が狂うというか……。あれだけ怒ってくれていたのにって思うじゃん? 男って基本そういうもんじゃん?
 そもそも、何故燐がこの場にいて、なおかつ俺が入院しているのかというと、原因は戦いの最中に途中乱入してきたシェヴァリエのせいだった。





第5話:恋と魔法に性転換





 ファフニールとの戦いの後、軽く古谷から説明を聞かされた。
 シェヴァリエは表向きの魔人討伐部隊。裏ではクラス:ボーダーが暗躍しているということになっているが、要するにそれはシェヴァリエの方が広告向けであることを意味している。
 つまり、シュヴァリエは住民の安全を魔人という人外の存在から守り、尚且つ犯罪者までもを取り締まる言うところのエキスパート集団として認知されることによって、"魔法学園の中でも特に優秀な部隊"と位置付けを広告しているということになる。
 では、クラス:ボーダーでは何がいけないのかというと——

「魔法を、ただ"殺す"為だけに使ってるからだよ」

 古谷はそう言った。魔人は人外の存在で、人に害を及ぼす。だから殺す。それは世界の理のようなものだ。しかし、"魔法"という存在をただ生物を殺す為だけに使う組織が一般的になれば、"魔法"という印象がすこぶる悪くなる。
 これは反魔法派の勢力に対しての措置でもあるとのこと。世界には魔法を有意義なものだとして使う者たちだけでなく、それは世界が生み出した巨悪であると考える人々もいる。そういった均衡を保つ為に魔人に対しての組織は表と裏で分けられている、というのが表向きの事情。

「もう一つは、そういった人前では明かせないような行為をする……例えば、僕の左腕をまるまる魔法を使う為の兵器にしちゃう、とかね」

 今回の戦闘でボロボロになった左腕を身体全身でプラプラと動かし、ダメだこりゃと一言ぼやく。どうやら、左腕の感覚が既に無いようで、自ら動かせないらしい。

「君のそれ……青い結晶のペンダント。それもアーティファクトだって言ってたけど、本来アーティファクトは政府が認めた者しか使用しちゃいけないんだ。重要な古代遺産でもあると同時に、人一人が使うには大きすぎる力を秘めていたりするからね」

 まだこれがアーティファクト……古代魔法遺産と分かってはいないけど、そういってもおかしくない。現にテレスはここにいて、俺の力となってくれた。それにしても、ファフニールとの戦いの時のあの力は一体……——お?

『っ、咲? 大丈夫?』

 ふらっと、今頭の中がぐらついた気がする。テレスの声が響くが、これはテレスにも伝わってるってことなのだろうか。

「だい、じょうぶ……?」
「え? どうしたの? ……桐谷君? 桐谷君!?」
「あっ——」

 ぷつん、と何か途切れるように俺の意識も一旦そこで閉ざされた。

 それから後に、俺は魔法学園内部の施設である病院に緊急入院となり、目覚めた時にはあの白い部屋だった。目が覚めると、傍にはいつものようにニールさんが微笑んでいた。相変わらず、何の感情も読み取れない。

「……おはようございます?」
「こんにちは、が正解ですね。今は昼です」

 こんな殺風景な白い部屋じゃ時間間隔なんてわからねーよ、とぼやきたかったがグッと堪えて自分は何日寝ていたか聞く。

「およそ三日です」
「三日……。……えぇっ!? 三日!?」
「しーっ、静かにしてください。一応ここは病院ですよ?」

 そりゃ驚くよ……そんなに寝てたのか。夜更かししたことはあっても、6時間睡眠をとれば起きれるぐらいには回復できたはずなのに……。

「これは推測ですが、慣れない"共鳴"のせいで身体に負担がかかってしまったんでしょう」
「"共鳴"……?」
「はい、貴方と、貴方の中にいるテレスさんとの共鳴です。桐谷君は確かにテレスさんがいることをはっきりと"認識"し、テレスさんの魔力を使って戦いました。それを仮の名前ではありますが、"共鳴"と呼ぶことにします」

 丸い椅子にちょこんと座りながらニールさんはくるくると人差し指を回転させながら話を続ける。

「桐谷君とテレスさん、お互いがお互いを認識し、認め合わなければ恐らく共鳴は出来ません。しかし、扱い方が分からない桐谷君にはどうしていいのかも分からず……」
「仕方ないでしょ、初めてだったんだから!」
「ふふ、すみません。でも、それで逆に良かったんです。桐谷君の肉体は恐らく魔法に慣れていない身体。下手に魔法を扱えば制御できなくなっていましたから」
「な、なるほど……」
「その証拠に、自分でも無意識の内に身体を動かせたような感覚はありませんでしたか?」

 そういえば、と思い返す。ファフニールの攻撃を避けて殴ったあの奇跡的な行動。まるで自分ではないような感覚。あれはニールさんの言うような無意識の内での行動に入るともいえる。

「……どうやら、あるようですね?」
「それが何か関係が……?」
「ええ。それが"テレス"という存在が貴方の中にいる証拠にもなります。その時、貴方の身体を動かしていたのは、テレスさんということになります」
「え——!?」
『ええっ!? 私っ!?』

 ——って、お前が驚くんかい! 
 突然のテレスの言葉に俺は顔をしかめる。その様子を見透かしたようにニールさんは小さく笑うと、

「恐らくはテレスさんも無意識なのかもしれませんが、簡単に言えば桐谷君の意識とは別に、テレスさんの意識が桐谷君の身体と自身の魔力を動かした、ということですね」
『そ、そんなことしてたんだ、私……』

 本当に無意識なのかよ。まあ、あの時は色々とテンパってたしな。仕方ないのかもしれない。テレスが魔法を使える理由がかの有名な魔法使い、テレス・アーカイヴと関係があるのかは定かではないが、そう名乗っても良いほどの魔力を兼ね備えているのではないか、と思わせる。
 ……でも、こんないかにもアホそうというか、世間知らずそうな物の喋り方をする奴に、あんな高度な魔術本を書けるとは思えないんだが……。

『むっ、失礼だよ! 咲!』

 ぎゃーぎゃーと頭の中で声を響かせてはいるが、気にせず俺はニールさんの方に顔を向けると、小さく笑って話を続けた。

「まあ要するに、桐谷君は上手く魔力を活用できたというわけです。身体能力を一時的に飛躍させる……これもちゃんとした魔法ですからね」
「実感そのものは無かったんですけどね……。でも確かに、湧き上がる力というか……そういうものはあったような気がします。俺ならいけるって思わせるというか……」
「あはは、桐谷君の場合はそれ、いつも通りじゃないですか?」
「え?」
「厄介事であろうと、自ら問題に首を突っ込むその正義感。無謀ともいえるそれは十分俺はいける、という自信とそう変わりないのでは?」
「う……そ、それは確かに……」

 自分でも何とかしないといけないとは思うんだけど、どうにも昔から身体が先に動いてしまうというか……。でも、自分自身に力がないのは誰よりもよく分かっているっていう矛盾がつきまとうけどなぁ。

「いえ、これは誰にでも出来ることじゃないですよ。一歩間違えれば確かに無謀です。しかし、人によってはそれを勇気と呼ぶ人もいます」
「ははっ、俺に力があればそうなのかもしれませんが……」
『私が今はいるよ!』

 うぉ、急にどうしたお前。
 俺の表情からテレスとのやり取りを読み取ってか、ニールさんは言葉を続ける。

「今の桐谷君には……力があります。テレスさんという姿はなくも、意思として、力としての存在がそこにある。そしてそれは、他人を守れる力になる。だからこそ、貴方を"クラス:ボーダー"に招いたのです」
「他人を、守れる力……」

 自分の手のひらをふと眺める。今まで、自分は言葉や意思に反して力のない自分を劣等感として捉えていた。けれど、今は自分の中に確かにいるテレスという存在を通じて……俺は誰かを、守ることが出来るかもしれない。
 情けないかもしれない。自分の可能性を諦めたわけでもないけど。ここに力があるなら、今の俺なら、やれる気がした。

「ニールさん。俺……クラス:ボーダーに入っ——」

 が、俺の言葉はすぐに掻き消されることになる。勢い強めに扉は開かれる。強く開かれたドアもたまったものではないだろうが、それを行った人物の顔を見るや否や、俺の心境もたまったものではなくなった。
 長い黒髪を揺らし、白く細身で、整った顔つき。幼馴染ながらも美少女なんだなこいつと思わせるその容姿——けれど俺にとってはその存在はまるで地獄にいる何かと対峙したかのような恐怖抱かせる。

「ぐ、ぃっ、ぅおぉ……!?」

 あまりに驚きすぎて、変な声が出た。しかし変わらずニールさんは笑顔のままで、燐はニールさんを見て一言。

「"また"、桐谷がご迷惑をおかけてしまして、本当に申し訳ございません!」

 え、ええ? 何で謝って……ていうか相手ニールさんに? どういうこと? それも"また"って……。

「ああ、いえ、大丈夫ですよ! 今彼に事の次第を聞いていたところなのですが、どうやらただ単に巻き込まれただけのようです」

 言いながらニールさんは立ち上がり、俺に一瞥をくれる。その表情は変わらないが、どうやら上手く話を合わせていたようだ。燐の様子から窺うに、前回も同じように。

「"シュヴァリエ"がいなかったらどうなっていたことか……。ありがとうございましたとお伝えください」
「ええ、分かりました。今回は"シェヴァリエによる救援活動"のおかげです。魔人の存在は未だに日々に浸透しているといわれていますが……これは魔法学園機密ですので内密に。しかし、お礼に関してはちゃんとお話しておきますね。それでは、私はこれで……」
「ありがとうございます……」

 ニールさんはそう言うと燐の隣を歩いてそのまま病室の外へと出て行ってしまった。
 ちょっと待てよ。どうして"シェヴァリエに助けられた"みたいな感じになっているんだ? 魔人と実際に戦ったのは俺達、クラス:ボーダーのはずだ。
 ……薄々と分かってきた気がする。クラス:ボーダーの話が一つも話題にあがらない上にニールさんのあの口ぶりからして、俺に事を知らせようとしたんだ。要するに、恐らくだが俺は一般学生として魔人の争いに巻き込まれ、怪我をした。そこをシェヴァリエが助けた、と。そしてそれは幼馴染である燐に伝えられて今に至るというわけだろう。

 ニールさんが出て行ったのを確認して、燐はため息をついた。それから沈黙。俺の方にゆっくりと振り向く燐。
 そして、現在に至るというわけだ。


—————


「こんなことならGPS機能の一つや二つ、つけてれば……」
「本当それプライベートの侵害だからね……? 実際にやってたって聞いてマジで怖かったからね……?」

 あまりに惜しむようにして言うから冗談か本気か分からない。……まあ8割方本気だろうけどさ。GPS機能が使えるのは主に一般市民の住む外壁の外だけだ。魔法石と呼ばれる特殊な魔力を放つものが電波を拾い、そこから発信するだとか何だとか……詳しいことは分からないが、とにかくそういうものらしい。
 最初の魔人との戦いで携帯が半壊してからGPS云々はなくなったようで、実家に連絡してそういう許可は俺を通してからして欲しい、と直談判しようかと思ったがキリがなさそうなのでやめておいた。

「そんなことよりだな……随分と、あれだな」
「何?」
「いや、その……久しぶりだ」

 言うか言うまいか迷った末に言ったわけだが、思い返せば燐と帰宅を共にしたのは随分前以来のように感じる。何でも、魔法科の"演習"とやらが始まって以来、燐は俺と帰宅を共にすることはなくなったんだけど……実は連絡自体はくれてたりはしていた。
 でも俺も色々と、ね、ほら。クラス:ボーダーにいる時に連絡が来たりとかしてさぁ……。新調した携帯を扱いこなすので精一杯でもあったかな。そんなわけで実際に会えたのは今日が久々なわけで。家隣同士なのにね。
 そういえばこう思い返している間に何を言うかと燐の様子を窺っていたが、何も言わない。何も言わない——が、その代わりに俺に拳が飛んできた。頬をかすめ、拳は枕にめり込む。ちょぉおおい、綿とか出ちまうよ!?

「っ、んで今そんなこと言ってんのよ!」
「い、いや、だってそうじゃない!? って、ちょっと顔赤くない!?」
「うるっさい!」

 今度は普通に殴られた。痛い。頭がすげぇ、クラクラする。これ血出てないよね? 大丈夫だよね?

『何となくだけど、咲のメンタルがゴリゴリ削れていってるのはわかるよ……』

 テレスよ、その通りだ。お前はそんなことまで分かるのか。ならば俺のこの心境についても理解してくれ。怖い、助けてくれ。

『お、乙女心だよ! きっと!』

 何それ、おいしいの?

「って、話聞いてんの!?」
「あぁああ! 聞いてます聞いてます! ごめんなさいっ!!」
「別に謝らなくてもいいけど……。だから、私そろそろ帰るって言ったのよ」
「へ? 早くない? 何で?」

 俺が凄く自然に疑問に思ったので聞いたら、燐はマジかこいつ大丈夫かみたいな顔で俺を見て、だからと言葉を続けようとした矢先のこと。
 どっがん、と燐が開けた扉の音よりも更にでかい、もう他の人に迷惑ってか病院でしょここ。絶対怒られるだろって程に派手な音をぶちかまして室内に入り込んできた人物。
 そしてそれは、燐が早く帰りたがっていた理由の意味を理解させる。
 入ったや否や、その人物は瞬く間に俺の元へ瞬間移動したかと思えば、次に俺が気付いた時には上空に。そして俺の元へ笑顔に涙というわけのわからない表情で飛び込んでくる一人の"少女"。


「"おにいさま"ーーッ!!」


 そのままダイビングし、俺の胸元へ来る。それはそれは物凄い衝撃かと思いきや、本体自体が小学生か中学生かぐらいの幼い見た目通りに軽い。この懐かしい香り。そしてこの破天荒ともいえる行動。

朝咲ともさ……!」

 俺の実の妹にして、俺とは全く才能の出来が違う。魔法の才能が他人よりも遥かに優れるが上に魔法学園の中でも異例の飛び級を成し遂げ、俺よりも学校の学年的には上の存在であり、尚且つ魔法学園で桐谷 朝咲(きりたに ともさ)の名を知らない者はいないとまでされるほどの有名人。

 それが、落ちこぼれの優秀な妹だった。


—————
【あとがき】
再びあとがき失礼します!! 遮犬です!

ようやく……ようやくオリキャラ募集を発表いたしました!!
長かった……全然来れなかったんだよぉ……。久々の更新、そして5話目、そしてオリキャラ募集……。
勢いあまってやたらとオリキャラ募集スレでズラズラと書いちゃったわけなんですけども! ようやく募集開始したのでオリキャラ投稿したろか、という人はどうぞ宜しくお願いします……!
URLにお貼りしておきますので、どうぞよしなに!

以上、遮犬でした!