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複雑・ファジー小説
- Re: 【影乃刃】 シャドウ・ブレイド ( No.10 )
- 日時: 2014/10/19 20:34
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 665joVJc)
混迷とした世界。
別の選択肢が存在したかもしれない未来。
日々戦乱に明け暮れる煉獄のような、そんな場所にその男はいた。
仁徳に優れ、狭義に篤く、礼法を重んじる。
智謀に欠けず、誠信に溢れ、多くの戦場で武勲を挙げ、人々を導いた。
『英雄』
皆誰しも彼をそう呼び、敬い、光の見えない暗中に希望を託した。
いや、押し付けた。
男には大義名分など無く、愛する家族と友を守るために戦い続けていたに過ぎなかった。
故に強靱な精神、精錬された妙技を持ち、生身の身体で機械の軍勢とも互角以上に渡り合った男も人々の期待は重く圧し掛かった。
だが、それも些事。
実直すぎる男には美しい妻があった。可愛らしい子があった。頼れる親友があった。
己を護る剣があった。
誇りがあった。
何より、帰るべき場所があった。
男は戦った。
大切なものを失わせないために。
しかし、世は無情と虚構と欺瞞に満ちている。
ひたすらに正しくあろうとすればするほど、歪みを生じさせ、暗がりの眼を惑わせる。
それは彼を執拗に追い詰め、追い落とそうとする悪意。
親友は殺され、妻と子は無惨にも命を散らした。
そして男の魂はその本質から、かけ離れて染め上がる。
憤怒の焔に焼き尽くされて。
『百鬼剣塵』が本当の鬼に成り変わった。
己に残るものは無い。
ならば為すべきは有象無象の滅殺あるのみ。
最早そこにはかつての思慮深き英雄の姿は垣間見えず、唯戦いに明け暮れる狂人が誕生した。
戦乱は長期激化の一途を辿った。
数多の死を蔓延らせ、生が躊躇なく疲弊する。
その渦中で男は出会う。
————ひとりの少女と。
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