複雑・ファジー小説

Re: 【影乃刃】 シャドウ・ブレイド ( No.4 )
日時: 2014/10/15 21:23
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hH8V8uWJ)


 廃墟然とした工場跡地内。

 朽ちた外壁から轟き差し込む雷光だけが、対峙するふたりの姿を時折暗闇に現し出す。

 『おおっ! この感触、かなりの手練れ者!! 幽羅、早く『あれ』を我に斬らせろっ! 斬らせろっ!!』

 幽羅が手にする蒼刃の太刀『絶影』がシャリシャリ、カチカチと刀身を鳴らし、早く戦わせてくれとばかり震え、暴れ出す。

 「落ち着け、直ぐに味合せてやる」

 その訴えを無視し、幽羅は眼前の異形の男を睨む。

 「・・・そノ姿、改造義体カ。サイボーグ嫌いのお前モとうとう頼らざる得なかったようだナ。しかシ、あの百鬼剣塵が。なんとモ可愛らしい・・・まるで愛玩人形ダ」

 複眼の男はそう言って、少女の頭から爪先まで全身を見下ろし、クククと低い声でせせら笑う。

 「好きに嗤うがいい。だが、見た目で判断するとは貴様の眼はこの数年で曇ったらしいな、網羅蠱毒。それが貴様の命取りだぞ」

 抜刀の姿勢を取る幽羅。

 「フン・・・。今度ハ確実に始末してやろウ。念入りにナ・・・」

 複眼から剣呑な目線を向ける網羅蠱毒。

 「それはどうかな」

 幽羅は玲瓏と澄んだ声を発して、風切る音も鋭く中空に瞬時に躍り出た。

 「ヌッ!?」

 描かれる、蒼い刀から繰り出される剣閃。

 「————虚刀・無影閃きょとう・むえいせん

 複眼の男、網羅蠱毒は咄嗟に身を伏せるようにして頭を下げた。

 白髪の数本と背中の管の一部が削ぎ飛ばされ、続けざまに放たれる剣閃を宙転、跳躍し素早く躱しきる。
 
 時にして一呼吸も経たぬ間、男の背後の機材と建物の柱が忘れていたかのように、ことごとく横薙ぎに断たれ、崩れた。

 「まだだ」

 今だ体勢を浮かす幽羅は勢いをそのままに再び太刀を獲物に薙ぎ払った。

 「図に乗るナっ!! 時代遅れの英雄風情ガっ!!!」

 網羅蠱毒は今度は躱さずに両腕を交差させる。

 「壊糸縛毒陣えしばくどくじんッッッ!!!」

 口元のガスマスク型の口角が開き、口内から夥しい無数の白い糸のような物体を吐き出した。

 剣戟と妖糸がぶつかり合う。

 剣閃の波動が妖糸を裂き立ち、散り散りにさせる。

 だが、複眼の男はニヤリと嗤う。

 ————瞬間。

 吐き出された糸が爆散。

 幾重にも拡散し、幾つもの飛沫となって周囲に弾け飛んだ。


 「チィっ! 厄介なものを!!」

 幽羅は地面に着地すると降り注ぐ飛沫を目にも止まらぬ速さで太刀を捌き、風圧の余波で吹き飛ばした。

 それらは工場内のいたる所に付着するとジュウジュウと煙を上げドロドロと溶解させた。

 毒液だ。

 それも強力な溶解液。

 あらゆる物を腐食させ、朽ちさせる薬品が含まれており、それを濃縮、凝固させた糸が武器なのだ。

 奴が『毒』の異名を持つ所以。

 立ち込める白煙と刺激臭。

 「さすが英雄ダ。剣の腕は微塵も衰えていないナ。これハ本気を出さねばならないカ・・・」

 両腕を振るう網羅蠱毒。

 割開した肘下から腕の長さまである両刃の刀剣を展開し、構える。

 「シャアァッ!! 死糸傀儡大蛇ししくぐつおろちっ!!!」

 口から再び無数の毒糸を吐き出すと、幽羅めがけて伸びていき、やがて幾本もの巨大な触手となった。

 それらは触れるものを溶かしながら意志を持つ生物、まるで大蛇さながらの動きで襲い掛かってきた。

 地面を、機材を抉り溶かしながら迫る触手。

 「絶影、あれは斬れるか?」

 幽羅は構える相棒に聞く。

 『聞くまでも無い。無論だ』

 問題ないと答える刀、絶影。

 そして、一瞬の迷いも見せず、幽羅は絶影を迫り来る不浄の蛇群に振りかざす。



 「————虚刀・龍影断きょとう・りゅうえいだん

 

 天高く上段に構えた太刀が豪速で斬り下ろされる。

 高空から竜が嘶くがごとく刃鳴りの風切り音が激しく大気を震わし、巨大な蒼影の刃を縦一文字に解き放った。