複雑・ファジー小説

Re: 【影乃刃】 シャドウ・ブレイド ( No.5 )
日時: 2014/10/15 20:45
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hH8V8uWJ)

 
 裂帛の覇気と共に繰り出された巨大な蒼い影の闘刃。

 それを正面から受け、しかし受け止めきれない蛇群の触手は巨体を切り裂かれ、塵芥となり消し飛ばされ相殺された。

 残るは僅かに降り注ぐ霞となった残滓のみ。

 どちらともなく地を蹴り、飛び掛かる。

 「はぁああああっ!!!」

 その中を蒼刀で斬り込む幽羅。

 「シャアアアアッ!!!」

 両の腕刀で迎え撃つ網羅蠱毒。

 交える剣と剣、互いに肉迫して斬り合う。

 蒼刃が網羅蠱毒の義眼のひとつを切り裂く。

 「グッ!?」

 浅手ながらも、たじろぐ。この小柄な少女の猛襲に八つの複眼が搭載されたカメラアイが徐々に追い付けなくなっていた。

 「どうした? お前の複眼は飾りか? 私を捕えてみせろ」

 「死ネッ! お前ハ過去の存在ダっ!! 亡霊メッ!!!」

 挑発する幽羅に連続して溶解糸を弾丸のごとく放ち撃ち出し、時には鞭のようにしならせ、攻撃する網羅蠱毒。

 タンと地面を跳躍し糸が降りかかるよりも早く、すべて躱し、その度にお返しとばかり身体を斬り刻む幽羅。

 舞の舞台のように軽やかに。

 「ぐあァっ! おのレっ!! この死にぞこないガっ!!!」

 我武者羅に、大振りに腕刀を薙ぐ。

 「遅い」

 しかし、そこに幽羅の姿は無く代わりに顔面に、その華奢な白亜の足から強烈な蹴りを貰った。

 仰け反る網羅蠱毒。

 慌てて体勢を立て直そうとするが、幽羅の追撃の太刀が両の腕を薙ぎ、両断した。
 
 「ぐアぁぁアアアあああアアアッッッ!!!!!」

 飛び散るのは血か、はたまたオイルか潤滑油か。

 どちらともつかない黒い液体を断たれた両腕から噴出させる。

 「言った筈だぞ。油断するな、とな」

 幽羅はトドメとばかり太刀の切っ先を放つ。

 「な、舐めるナッッッ!! シャアアアッッッ!!! 跋扈蟷螂凶手ばっことうろうきょうしゅ!!!!」

 網羅蠱毒の肩、胸、腹、背中から複数の格納された義手が現れ、それぞれ割開し、鋭刃を展開する。

 「ジャッ!!! 網毒縛鎖葬巣もうどくばくさそうそう!!!!」

 さらに妖糸を放出して細く拡散させ工場内全域に張り巡らせると、その糸の上に飛び乗り器用に刃先を操り走る。

 八本の腕を使い、蜘蛛のごとき醜悪な容姿となった網羅蠱毒は張り巡らせた糸を瞬速で飛び移りながら上下左右いたる所から攻撃を繰り出す。

 「ほう、まだそんな奥の手を隠していたのか」

 刃の攻撃を捌きながら感心する幽羅。

 『まだ足りん! 我はもっと斬り結びたいぞっ!!』

 打ち合いながら咆える絶影。

 「シャァアアッ!! 逃がしはせんゾ!! 触れれバ、即腐り死ヌ!!」
 
 蜘蛛の巣のような網の目の縦横から幾重にも刃が降り注ぐ。

 動きを制限されながらも捌き躱す幽羅。

 触れる妖糸が着物を所々溶かし、白い肌を露わに覗かせる。しかし微塵も臆することなく、その表情はむしろ闘いを楽しんでいるかの様だ。

 「多少は腕を上げたようだが、これが貴様の限界点と見た。網羅蠱毒よ」

 見透かすような視線を投げ掛ける幽羅。

 「なん、だ・・・トっ!?」
 
 追い込んでいる筈なのに何処か釈然としない違和感を憶える網羅蠱毒。

 逆に己が追い込まれている錯覚に陥る。

 言い知れぬ不安。

 奴の余裕は何なのか。

 そんな考えを振り払うように、一斉に多手刀で貫こうとする。

 柱を背に既に退路が閉じた幽羅。

 周囲は毒糸の縛鎖。

 何処にも逃げ場はない。

 勝ったっ!!!

 勝利の確信。














 「・・・少し本気を見せてやるか、絶影」

 『早々に決着が着いてしまうが、仕方ない』

 呟く幽羅に頷く絶影。

 蒼い刀身から漲る剣氣。

 その周囲に同じく蒼い陽炎がゆらぐ。

 「我は一対の太刀。我はすべてを断つ羅刹の刃」

 長い黒髪が靡き、着物の裾がはためき白い両足が露わになる。

 「我は、影のつるぎ也り」

 正眼、水の構えからゆっくりと横薙ぎに移り、柳の構えとなると低く腰だめる。
 




 

 「————絶刀・幻影無刃ぜっとう・げんえいむじん








 蒼い影がほとばしった。