複雑・ファジー小説

Re: 【影乃刃】 シャドウ・ブレイド ( No.6 )
日時: 2014/10/15 22:12
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: hH8V8uWJ)



 ほとばしるは幻襲の影。

 紡ぎだされるは無限の太刀。

 虚空を埋め尽くす、蒼嵐の烈刃。

 無尽無双、乾坤の滅閃。

 妖糸で阻まれた空間を一瞬にして断ち、爆ぜる剣圧が周囲の残りの糸も蒸発させ穿つ。

 「なっ!!?」

 弩級する刀気の波動が喰らいつくように網羅蠱毒の躰を刻み込む。

 幾重にも重なる蒼刃が腕を一本、また一本と、いとも容易く両断せしめ、斬り裂いていく。

 やがて最後の一本の腕が斬り飛ばされ、宙を錐揉みしつつ網羅蠱毒は地面に激突した。


 「ぐはァッ!!!」

 
 倒れたそこに白い足先が踏み出す。

 「・・・どうやら貴様の技は尽きた様だな。では、そろそろ終いにするか・・・」

 『なかなかに有意義な時であった。惜しむるならば今一度剣を交えたかったぞ』

 よろよろとふら付き、起き上がる網羅蠱毒。

 太刀を眼の高さで構える幽羅。

 刀身と視線がひとつなった彼女の眼力を浴び、網羅蠱毒はドッと脂汗を流し、じりじりと後退った。

 「ぐっ・・・! 貴様、何が目的ダ・・・!?」

 ほとんど反射的に、苦し紛れに網羅蠱毒は言い放つ。

 「目的? 決まっている。あの日、私を卑怯にも罠に嵌めた貴様らを地獄に叩き落とすためだ。そのために機械の躰に身を宿し、機会を待っていたのだ」

 幽羅は答えながらも油断無く太刀を携える。

 「もっとも貴様等は私を完全に殺したと思い込んでいたようだがな・・・。貴様らにとってみれば私は亡霊、冥府からの使者のようなものか」
 
 「ならバ、今一度その地獄とやらに送り返してやルッ!!!!」

 網羅蠱毒は状態を反らし、その体勢から無理矢理に妖糸を大量に幽羅に向けて吐き出した。

 浴びせかけられる大量の糸。

 「!? 自分も巻き込むつもりかっ!!」

 『捌ききれんぞっ!』

 糸は瞬く間に膨張、大爆散する。

 手当たり次第、所構わずを溶かす猛毒の妖糸。

 咄嗟に断たれた腕を前に出し防ぐ網羅蠱毒。自身の身体にも付着し容赦なく溶かされ苦悶の表情を晒す。
 

















 立ち込める白煙で辺りは覆い尽くされている。

 防御姿勢の網羅蠱毒は、融解し金属の骨格がまろび出した腕を下げる。

 ありったけの溶解液を濃縮、放出した。

 これほどの至近距離、無事では済まない。

 生身はもちろん、重戦車、サイボーグの金属装甲すら容易に溶かし尽くす。

 もはや跡形も無く、無惨に此の世から消え去ったであろう。

 生き残るものなど皆無。

 不可能。

 その筈。

 筈なのだが・・・。

 「ふうっ、やれやれ。やってくれたな、一張羅がボロボロだ」

 『以前の躰なら耐えられなかったであろう』

 白煙から現れる人影、そこには何事も無かったように佇む太刀を持った裸身の少女。

 絹のような、キメ細かい素肌。凹凸は少ないが女特有の艶さを匂わせ、隠す事もせず露わに、惜しげも無く衆外に魅せる。

 「き、貴様。あれヲ零距離で喰らイ、無事な訳ガ・・・!!!」

 愕然とする網羅蠱毒。

 在り得ない。

 だが、その在り得ない存在が目の前に在る。

 理解出来ない。

 これは対峙してはならない『モノ』だ。

 思考の範疇から、すぐさま切り放して複眼の男は後ろを振り返り逃走を試みた。

 もうそこには死闘を繰り広げた武人の姿は無く、敗者。

 唯の弱者でしかなかった。

 それを憐れみと侮蔑の視線で見詰める幽羅。

 手にした太刀を無造作に払う。

 蒼い刃は後ろを向き、ひたすらに無様に走る男の首と胴をふたつに分けた。