複雑・ファジー小説
- Re: 【影乃刃】 シャドウ・ブレイド ( No.7 )
- 日時: 2014/11/13 23:04
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: JcmjwN9i)
幾重にも隔壁が閉ざす重々しいゲート。
錠接する閂であるセーフティ・シャフトが回転すると同時に抜かれ、厳重なセキュリティを解除して扉が開閉された。
電子音と共に開かれた扉から現れたのは、薄汚れたボロ布を無造作に羽織った太刀を携えた黒髪ロングの美少女。
その場所は思いの外手狭で、こじんまりとしていたが、何処かの研究施設を思わせる構造であり、最先端の機材設備が惜しみなく取り揃えられていた。
踏み入れると施設内に甘苦い香りが充満して漂い、匂いに思わず顔をしかめる幽羅。
「・・・お前の喫煙ぶりには正直、辟易している。特に『それ』は如何にかならんのか。酷い匂いだぞ、朱蘭・・・」
口元を手で押さえ、部屋の奥の長ソファーでキセルを燻らせる気だるげな美女に文句を言う。
「これがアタシなりの日々のストレス解消法さ。それに人工肺の浄化機能がすべてをクリアにしてくれるから肺癌の心配は一切無い」
白衣に黒い下着だけという扇情的な格好で寝そべるポニーテールの美女、紅朱蘭(リ シュウラン)は煙草の煙をゆったりと吐き、にべも無く口にすると首を廻らせ、自分の寝城に進入してきた少女を視る。
「んん〜? 何そのボロっちい格好は・・・。ああ、もしかしてアナタが言っていた仇と戦ってきたのね。結果は・・・聞くまでも無いみたい」
幽羅は中央の簡易テーブルの上にボロ布から取り出した生首を転がす。
「まずは、一人目だ。これがその内のひとり」
ゴロリと出てきた網羅蠱毒の首は絶望の表情を滲みだしたまま固まっていた。
「こいつの脳殻を解析してほしい。残りの仇について何らかの情報を持っているかもしれんのでな」
『最後の武人として有るまじき惰弱ぶりに話を聞く前に思わず殺してしまったと素直に申せば言いだろうに、幽羅』
漆黒の太刀絶影が補足するのを無視する幽羅。
紅は大きく伸びをすると面倒臭そうに起き上がった。
「はいよ、それぐらい簡単な仕事さ。・・・それよりもアタシが気になるのはアタシが丹精籠めて創り上げた『作品』が無事かどうか何だけど」
そう言って煙草を吹かしながら幽羅に歩み寄る。
「何も問題は無い。自分でも驚く程の脊力を発揮しているぞ、この『躰』は。義体とは便利なものだな。己が身に至って初めて有用性が理解出来た」
幽羅は纏うボロ布を捲ると奥から純白の素肌の裸体を晒し、腕の調子を確かめるように掌握する。
「当然ね。その義体はアタシの特別性、並みのサイボークは勿論、軍機重装タイプも赤子同然に捻るポテンシャルを秘めてるんだから。でもそれを平然と使いこなすアナタに感服するわ。本来人間が操作するように設計したつもりは無いんだけど」
紅は自身の作品の出来栄えを確かめる様に幽羅の身体各所に触れて調子を調べる。
「ふ〜ん、特に異常は無さそうね。若干金属疲労があるけど流体合金が自己修復結合するから大丈夫よ」
一通り少女の裸身を調べ、そして満足したのか一服する。
「・・・おい」
幽羅が目を鋭く細め紅をジト目で睨む。
「ん?」
紅は煙草を吸いながら幽羅の決して大きくはないが、形良い滑らかなふくらみを鷲掴み揉んでいた。
「素晴らしい感触だわ。まるで麻薬のように感性に憑りつくこの充足感、得も言われぬ至高の悦び・・・。触れているだけなのに伝わる身体中への快感・・・嗚呼、濡れてきた・・・」
恍惚然とした紅。
揉む手が激しさを増し、長い指先が固くなって主張する桜色の頂きをキュッと摘んだ瞬間、一刃の閃光が奔る。
紅の白衣、身に着けていた黒の下着が木端微塵に細切れて部屋中に霧散した。
「・・・いい加減にしろ。だから此処に来るのは嫌だったのだ」
抜いた太刀を素早く鞘元に納める幽羅。
その顔は少し赤くなり、白い肌をほんのりと染めていた。
「何よ。別にいいじゃない、ちょっとぐらい。それに『そういう機能』の性能も確かめたいんじゃない? 元『男』として。アタシの自信作の具合調整も兼ねて奥のベッドで念密に・・・」
紅は素っ裸にも気にする事もなく、わきわきと両手を動かし目の前の美味しそうな美少女ににじり寄る。
ギロリと音がしそうな殺気が籠められた視線が紅を射抜く。
「冗談よ、冗談。嫌ねえ、素人相手に殺気立っちゃて」
かぶりを振りお手上げのポーズを取る紅。
幽羅は深く長い溜息を吐いた。
「・・・服をくれ、朱蘭。いつまでもこのままでは具合が悪い。そしてお前もさっさと服を着ろ」
今は少女の、といっても機械のこの身体。
所謂サイボーグなのだが、幽羅の性別は紛れも無い『男性』のものなのだ。
このような経緯に至った理由には『仇』と称す輩が深く関わっているのだ。
己を姦計に貶め、亡き者にせしめようとした者たち。
そして愛する者を奪った憎むべき敵。
許すものか。
必ずこの手で決着を。
残る仇は、あと五人————。