複雑・ファジー小説

Re: STORM[オリキャラ募集開始!] ( No.10 )
日時: 2014/11/04 22:56
名前: ブラッドオレンジ (ID: LTdV0xGg)
参照: 長くなってすいません…

シャドウフェイスは懐から投擲用のナイフを素早く抜き、九十九に向かって投げ放った。
九十九は、それに怯む事もなく、虫でも払うかのようにそのナイフをたたき落とす。もちろん、通用しない事はシャドウフェイスには百も承知だった。
ナイフがたたき落とされたのを合図に、いきなり歩道のマンホールがまっすぐと吹き飛び、中から常人とは思えぬスピードで九十九に突進して来る。
「む…!」
それをすぐに感じ取った九十九は、向かってくる相手に向かって、岩のようにゴツゴツとした拳を握りしめ、空を裂く音が聞こえるほどの速さで拳を放った。
だが、相手はそれをハナから読んでいたように上体を反らして避ける。そして、その流れのまま止まる事なく、上段回し蹴りの体制に入る。瞬き一つの間の出来事だった。
「ぬぅう!」
蹴りは見事九十九の鳩尾にヒットしたが、九十九が狼狽える様子はない。板チョコの様に割れた——というと可愛すぎる表現だが——九十九の腹筋が、百獣の王さえ仕留めてしまいそうな蹴りを受け止めたのだ。
「…なにこいつ。筋肉オバケ?」
九十九に襲いかかってきたのは、なんと見た目十代の女の子であった。
ボラル合金という薄さ1ミリになってもその耐衝撃性を失わない素材で出来た赤いスーツを身にまとい、すました顔で蹴りを入れたままの体勢を保っている。
彼女はシャドウフェイスの仲間であるイオ。神話の登場人物と同名である彼女だが、しかし彼女に慈悲や悲哀は似合わないだろう。
「まだまだ浅いですね、お嬢さん」
「そう?じゃあこれは?」
イオはもう片方の脚を挙げ、九十九の分厚いまな板を壁のように使い、後方へと跳んだ。
地面と平行になりながら、彼女は背負っていた日本刀の柄に手をかける。近未来的なスーツに日本に古来から伝わる伝統的な刀は似合っていない。
着地すると同時に刀を抜き、見せつけるように空気を切り裂いてみせる。
「ふむ、刀使いですか」
「よそ見すんなよ」
顎に手をあて、興味深そうにうなる九十九の横から、シャドウフェイスが接近戦用のナイフを構えながら迫っていた。
余裕綽々の九十九に近づくのは得策と言えないが、それでもシャドウフェイスには負けない自信があった。
「うっとうしい…!」
先ほどナイフをたたき落としたように、手刀を振り下ろした。勢いのままに急降下した九十九の手は、いとも容易く地面を砕く。
だが、シャドウフェイスを叩き切った手応えがなく、九十九は違和感を感じた。
「お前がもし、今違和感を感じているんだとしたら——」
平然とした口調で語りかけるシャドウフェイスの声は、九十九の背後から聞こえてきた。
「お前はそれだけの人間だったってことだ」
ナイフの先で滴る血。シャドウフェイスには傷一つついていない。
九十九は降ろしたままで静止させていた腕をゆっくり持ち上げる。だが、肘から先は地面に刺さったまま動かず、目に入ったのは刹那の仕事とは思えないほど綺麗な腕の切り口だった。「なっ、あああああ!?うあああああああ!!」
生まれて初めて体の一部を奪われ、自尊心が傷つくより前に九十九の心は混乱していた。慢心故に、その隙を生み出してしまった。
「イオ」
「分かってる」
イオはつんけんした態度で応えながら、重心を低く下げ、日本刀を構えた。
そして、弾丸のように真っすぐと走り出し、目にも留まらぬ速さで刀を振るう。わずかに残った光の閃光にそって、九十九の体の表面に切り傷が入り、血が勢い良く溢れ出す。
「いい仕事だ」
「言われるまでもないっての」
イオは照れる様子も無く、仕事を終えた安心感と返り血に入り浸りながら、刀を鞘に納めた。