複雑・ファジー小説
- Re: STORM[感謝!参照1500突破] ( No.111 )
- 日時: 2015/01/11 21:52
- 名前: ブラッドオレンジ (ID: 4pf2GfZs)
[番外編①]
午前7時。
STORM日本支部六階、食堂にて。
「絶対醤油じゃ!」
「ソース以外認めない…!」
爽やかな朝には小鳥のさえずりが必須といえるが、しかし今道郎を取り囲んでいるのはちょっとした喧噪と焼きたての目玉焼きの食欲をそそる濃厚な香りだった。
時は数分前にさかのぼる。
STORMに泊まりがけで働いている道郎は、隊員の誰よりも早く食堂へとたどり着く。
普通ならば部隊内のミーティングに参加したりするのだが、しかし彼は部隊長の権限を使いその時間を昼にずらしている。それほどまでに、道郎にとって朝食は大事なものなのだ。
どんなに仕事で忙しい時でも、十分な朝食を摂る事だけは忘れない。
「サンドウィッチと、コーヒ。それとサラダも」
「あいよ!」
受け付けで食堂につとめる川内さんの清々しい返事を聞くと、一日が始まったという感じがする。
綺麗な二等辺三角形を象るSTORM名物のハムエッグサンドウィッチと、ボウルに盛りつけられたボリューム満点のサラダ。そして砂糖もミルクも一切入っていない、目覚ましにちょうどいいブラックコーヒー。
それらの乗ったトレーを両手で持ちながら、食堂の真ん中当たりの席に座る。
だだっ広い食堂の中で、孤独を味わう事のできる唯一の瞬間。そんな貴重な瞬間を味わえるのも、早起きをした者の特権だった。
しばらくしてると、少しずつ人が集まりだした。
朝だからか、まだラフな格好で歩く者もいるが、きちっとした制服に身を包む者もいる。それはおそらく、戦闘部隊以外のSTORM隊員だ。
STORMにあるのは、何も戦闘部門だけではない。諜報部門や事務部門など、その種類は様々だ。
それらが合わさり、STORM日本支部につとめる者はざっと1000名くらいだろう。その辺の大手企業と比べたら人員は少ない方だが、しかし皆仕事ができる者ばかりだ。
ちなみに、その中で戦闘部門は一割程度だ。
「おはよう、結城…」
「おはようさん!結城隊長!」
両極端なテンションで道郎を挟んだのは、遥伊 空木と不知火 小夜の二人だった。
空木は朝から元気なのでいいとして、まだ小夜は眠たそうだ。その証拠にまぶたが完全に開いていない。
「おはよう不知火。おはよう遥伊」
二人と挨拶を交わして、サンドイッチを頬張っていると、両側から同じ香りが漂ってきた。
見てみると、小夜と空木は目玉焼きを頼んだようである。確かに、ここは目玉焼きも絶品だ。実家に帰れない隊員もいる中で、日常のなんでもない朝を思い出す事が出来るメニューというのはありがたいだろう。
だが、問題はその後だった。
食堂のテーブルには、端の方に塩やソースなどの調味料が置かれている。食事をする人は、それを自由に使っていいとされている。
さて、小夜と空木は目玉焼きを食べるにあたって調味料を使おうとしていた。
中には何もかけずに食べる人もいるだろうが、この二人の場合そうではないらしい。
「遥伊、ソースとって」
「おまっ、年上には敬語使えと…」
ぶつぶつといいながらも空木はソースを取り、道郎の前方を通過して小夜の近くに置く。
小夜はそれを受け取ると、ソースを目玉焼きにかけた。道郎は目玉焼きにはなにもかけない派だが、それは何度か目にしていた光景だったので驚きはしなかった。
だが、次の瞬間、道郎の横で椅子の倒れる音がした。
「んなっ、おい!なんでそげなことしちょるか?」
強い口調で小夜に問い質すのは他でもない空木だった。訳が分からないといった表情で椅子から立ち上がっている。その勢いで椅子は倒れたのだろう。
「なんでって…、これが普通でしょ?」
「はぁ!?いやいや、目玉焼きには醤油じゃろ!?」
空木は近くにあった醤油を手に取り、紋所のように前へ突き出す。この時点で相当異様な事態になってきた。
「醤油…?そっちこそありえないよ。ソースが普通」
「いーや、醤油!」
「ソース!」
「醤油!」
だんだん熱くなってきたのか、もはや口喧嘩ではなくただ調味料の名前を叫ぶだけになってきた。
「なになに?喧嘩かい?」
そこに現れたのは、立華 桐華である。第一部隊でもかなりの実力の持ち主で、小夜を「子猫」と呼び、文字通り猫可愛がりしている。
彼女の手にもまた、目玉焼きの乗った皿が見えた。
「あたしとしては可愛い妹分の子猫の味方をせざるを得ないけど?」
「いや、取るに足らない喧嘩だ…」
道郎としてはそこに桐華を絡ませたくなかったので離れてもらいたかったが、それを小夜が許さなかった。
「桐華。目玉焼きにはソースだよね?」
「いや、醤油じゃ!絶対醤油!」
二人は交互に主張を繰り返すが、それに対して桐華はだんまりだ。さすがに呆れているのだろう。
だが、道郎の予想は外れた
「いいかい?二人とも、目玉焼きには、塩だ」
道郎は思わず顔を伏せる。
「塩?」
「そう、塩。それ以外はありえない」
腕を組み自慢げに語る桐華。道郎は思わずもれそうになった深いため息をコーヒーで流し込む。
だが、意外にもそれで二人は静まった。
「まぁ、姉御がそういうなら…」
「仕方ない、か」
自由奔放で有名な小夜も、さすがに桐華には弱い。
小夜と空木は互いに小さな声で謝り、再び朝食に戻った。
争いを鎮めて一段落している桐華に、道郎は小さく手を合わせ感謝した。
これでようやく、静かな朝食を——。
「遥伊、シーザードレッシングとって」
「おまっ、サラダにはごまドレッシングと決まっちょるじゃろが!」
「なに言ってんの?シーザードレッシング!」
「………」
今度からこいつらの隣に座らねぇ、そう決めた道郎だった。
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以上、番外編①でした。
オリキャラを御借りした皆様、キャラ崩壊して誠にすみません。
なんとお詫びすればいいやら…。
こんな自分を許していただけるならば、次回にもご期待ください(泣)
番外編のくせに2000文字も…。