複雑・ファジー小説

Re: STORM[番外編①UP!] ( No.122 )
日時: 2015/01/19 00:02
名前: ブラッドオレンジ (ID: 4pf2GfZs)

どんな人間にも、油断が生まれる瞬間がある。
一番多いのは、勝ちが見えた瞬間。
その瞬間に人は、安心感と脱力を覚える。
たとえそれが、一つの部隊を従える大物であっても、無い事ではないのだ。


先ほど道郎が避けた針が、そのまま天井へと軌道を変えずに突き刺さる。
それによって、蕎川の能力の効果が発動され、道郎の頭上の天井が、丸ごと消えた。
(っ!)
上の階はなんだったか。思い出す前に大量の商品棚やら椅子やらが轟音を立て次々と落下してきた。
道郎は敢え無くその下敷きとなり、蕎川の視界から姿を消した。

「…フム」
蕎川は最初から、この事を計画しながら戦闘を進めていた。
フードコートの上には何も無い事を知っていたので、道郎が落下物で押しつぶされる様な、そんな場所を選んだ。
ちなみにこの真上にあるのは読書用のスペースを設置してある大型の本屋だ。
大量の本に加え、棚やその他の備品の重みも受け、無事でいられるはずがないだろう。
蕎川は、敵を倒した事に愉悦感を覚える反面、STORMなど所詮はこんなものかと期待はずれな実力に肩を落とした。

蕎川は勝利を噛み締めるのも早々にさっさとその場から立ち去ろうとした。

さまざまな堆積し出来上がった山の中から、蠢く音が、蕎川の年の割には鋭い耳に入ってきた。
「…」
恐る恐る振り返ると、積み重なった物が一つ、また一つと内側からどけられていく。
「まさか、生きているのか…」
やがて傷だらけになった一本の腕が見え、近くにあった大きな商品棚に捕まり、道郎がその姿を再び現した。
衣服は破れ、彼にしては珍しく息も上がっている。
だが、なにより蕎川の目をひいたのは、道郎の頭部だった。

「あー、くそっ。またか…」
道郎の顔の皮膚が、ところどころ破れ、そしてその下に、黒雲母の様な白が少し混じった『黒い部分』が露見していた。
どちらかというとそっちが本物の皮膚のようにも見える。
「まぁいい。今度また作らせるか」
投げやりに言うと、道郎は顔面に残った皮膚をすべて剥がす。
結城 道郎の顔は、漆黒に染まっていた。
まさしく、「シャドウフェイス」と呼ぶに相応しい容貌だった。

「貴様、それは…」
「お前に教える義理は無い」
顔を覆っていたマスクを剥がし、解放された気分になった道郎は、首をコキッと鳴らした。
道郎にとってこの顔のマスクを取る事は、気分の転換——スイッチング・ウィンバックとなって彼の精神を不利な状況から立ち直らせる手段となっていた。
互いに譲らず白熱していた道郎と蕎川の戦いに、ピリオドが打たれる時が迫っていた。