複雑・ファジー小説

Re: STORM[本編 UP!] ( No.124 )
日時: 2015/01/26 00:33
名前: ブラッドオレンジ (ID: BYbKc4ae)

本来、客を楽しませる筈の娯楽施設であるパラダイス00は、今や地獄へと変貌していた。
特に人々が食事を楽しむための四階は、既に食欲が失せるほど血が飛散していたが、後でSTORMの職員がどうにかしてくれるだろう。

「ぐっ…あぁ!」
道郎が自信の素顔を晒してから数分も立たずして、戦況は一気に変わっていた。
先ほどまでリードしていた蕎川だが、今は新品の着物を血で汚し、皺だらけの顔は恐怖で歪んでいた。
道郎を追いつめていた時の、すべてを見越した様な威厳のある態度はどこへやら、道ばたで倒れ込む野良犬のようになってしまった。
「…」
そんな蕎川に、軽蔑を込めた視線を向けながら、道郎は床に倒れ込んだ彼の首根っこを掴んで窓ガラスに叩き付けた。
「うぐっ!!」
叩き付けられた衝撃で蕎川の口から赤黒い血が吐き出される。
それを見ても、道郎の表情は石像のように一貫としている。
悪人には容赦しないというのがSTORMの基本的なスタンスだが、それをここまで徹底できるほどの冷酷さを道郎が持ち合わせているのは、やはり能力の副作用で彼の心までも変わってしまったかもしれない。

道郎は蕎川を壁に押さえつけたまま、拳銃を蕎川の眉間に突きつけた。
「さて、もうそろそろ終いにしよう。あんたも長く生きたろう」
「…さてどうでしょうな」
予想だにしない蕎川の含み笑いを見て、引き金を引きかけた道郎の手が止まる。
こんな人間の言葉に耳を傾ける余地はない、と心では分かっているのだが、しかし道郎は蕎川が続ける言葉を口を閉ざして聞いていた。
「確かに私はここで終わりだが、私は氷山の一角でしかない。クライシスには、まだまだ同士が居る」

だからどうした、と問いかけようとした瞬間、窓ガラス越しに空気をかき回すプロペラ音が聞こえてきた。
おそらく音から判断するに攻撃ヘリコプターだが、STORMは応援を要請していない。
(となると、敵軍か)
蕎川を見てみると、一仕事終えた様な満足げな笑みを見せていた。
これが到着するまでの時間稼ぎが蕎川の仕事だったなら、ずいぶんとご苦労な事だ。

「聞こえますかな?この音が…」
「あぁ、バッチリと聞こえる」
「アレが我々が独自に開発した兵器『Cー13』。貴方たちは終わりだ。アレには最新鋭の——」
「ちょっと黙ってもらおう」
道郎は蕎川の口に銃を突っ込み無理矢理黙らせる。
「俺が聞きたいのはそんな無駄話じゃない。お前らの努力の結晶が、無惨にも墜落する音だ」