複雑・ファジー小説

Re: STORM[オリキャラ募集中] ( No.21 )
日時: 2014/11/06 23:51
名前: ブラッドオレンジ (ID: LTdV0xGg)

煙草を一本吸い終えた頃には、時計が十一時丁度を指していた。もうすぐ昼食の時間だが、しかし、あまり腹はすいていない。
何か適当な用事を探すべく休憩所を出ると、不意に背中を叩かれた。
「よっす、結城。今ヒマか?」
声をかけてきたのは轟木 大地(とどろき だいち)——通称“オルソ”。道郎とは違う隊であるが、何度か共闘した事があり、プライベートでも世話になっている。
生まれついての兄貴分で、年下の世話が好きらしい。道郎とは二つしか歳が違わないが、頼りがいがある人物だ。
どうやら今日はまだ仕事が入っていないようで、ラフな格好をしている。
「ヒマですよ」
年下として、丁寧にも敬語で答える。STORMは確かに階級や役職があるが、その間に壁があるわけじゃない。支部長の彰にさえ、タメ口を使う者もいる。
「そう?じゃ、ちょっとつき合ってくれよ」
「わかりました」
丁度いい用事が出来たと思い、道郎は二つ返事でついていく事にした。

連れてこられたのは先週新設された地下演習場である。ここは隊員同士が互いに実践の訓練をし合うための、無駄なものを一切省いた何も無い空間である。
ここの他にも、日本支部内には四つの演習場があるが、やはりそれだけでは足りなかったようで、それじゃあ地下にもう一つ作ろうとなったらしい。
「広いですね…」
観戦用の長い窓から内装を覗き、道郎は単純な感想を述べる。
「すごいだろ?俺も手伝ったんだぜ?」
「といっても、資材を運ぶだけでしたけどね」
自慢げに語る大地に茶々を入れたのは、研究員の荒川 薫(あらかわ かおる)である。
彼女は元は常山の助手で、それにふさわしい成果の数々を挙げている。その優秀さは、常山にも劣らないくらいだ。
欠点はズボラな所で、現に今も袖の伸びきった白衣を着用し、髪は台風に晒されたかのごとく荒れている。身なりを整えれば美人なので、なお勿体ない。
「まぁでも、そのおかげで作業がスムーズに進んだので助かりました」
いきなり褒められて、大地は照れくさそうに笑みを浮かべる。
だが、これを見せるためだけに連れてこられたのかと思うと、どうにも腑に落ちなかった。
そんな道郎の思考を汲み取ってか、大地は本題に入るべく咳払いを一つしてから、道郎に向き直った。
「で、今日はお前にこの演習場を試しに使ってもらいたい。使ってみてどうかを聞きたいんだよ」
特に仕掛けもないただの空間に対してテストというのも意味が無い気がするが、そうも簡単に頼みを断れるはずも無かった。
「いいですよ。でも、相手はどうするんです?轟木さんがしてくれるのですか?」
轟木は首を横に振る。
「いや、俺もそうしたいんだが、どうしてもお前と戦いたいって命知らずな奴が居てな」
轟木がそう言うと同時に、地上から地下への階段を降りて来る足音が聞こえてきた。
現れたのは十代の少年だった。童顔ではあるが、とても青春真っ只中とは思えないほど熱意にあふれた目をしていて、思わず道郎は身構えた。
「“鷹の目”——九重 汐(ここのえ しお)っす!よろしくお願いしますっ!」
なるほど暑い新人だ、と思い、少し期待しながらも道郎の顔つきは『シャドウフェイス』の冷酷なそれに変わっていた。