複雑・ファジー小説
- Re: STORM[オリキャラ募集予定] ( No.3 )
- 日時: 2014/11/24 22:53
- 名前: ブラッドオレンジ (ID: LTdV0xGg)
プロローグ 『夜明けの闘争』
甲高く鳴り響くサイレン。赤色灯がもうすぐ夜明けとなる街の各所で点滅し始める。しばらくして、落ち着いた女性の声でアナウンスが入る。
『アラートレベルA。住民の皆様は防衛用シャッターを閉め、避難体制に入ってください』
すっかりと寝静まった住民の大半はその音に起こされ、街中の建物の窓や入り口は全てシャッターで閉じられる。これから戦争でも始めるかのような物騒な光景だが、街に訪れたのは、軍隊を相手にするより厄介な存在だった。
一方で、警報が出されたというのに、逃げ出さない者もいる。
黒いワゴン車を眠そうに運転するとある若者がその内の一人である。彼はこの街の住民で、どうせ自分は被害に遭わない、という低すぎる意識のもと人気のない車道を走っていた。
だが、やがてヘッドライトが照らし出す先に人影を見つけた。自分と同じく逃げずにふらつく住民かと思ったが、どうも様子がおかしい。
その人影がこちらに近づくたび、その姿があらわになっていく。
口元だけを覆うガスマスクをつけた大男。剥き出しになった上半身は必要以上に鍛え上げられていて、毛皮のコートでも着たらクマとでも見間違うのではないだろうか。見つめるだけで人を殺しそうな鋭い目つきと、額についた直線状の傷に見覚えがあった。
先日、不屈の要塞と呼ばれる東京西刑務所から脱獄した連続殺人犯、九十九 鯨(つくも いさ)である。
「ひっ…!」
若者は短い悲鳴を上げ、ハンドルを切る。誰もいないのをいい事に、対向車線へと移動し、全力でアクセルを踏んだ。さっきと打って変わって表情に余裕は感じられない。ただ逃げる事に必死である。
だが九十九はそれを許さなかった。
地面がへこむほどに大きな足を踏み込み、車に向かってジャンプした。巨体には似合わない、まるでカエルのような鮮やかな跳躍である。
そして九十九は、着地点をワゴン車のボンネットとし、ピッタリその上に両足で降り立った。
「う、うわああああああああああああ!」
フロントガラス越しに睨みつけてやると、若者は直ちに車から出ようとする。しかし、恐怖で上手く体が動かないのか、車から出たとたん車道に転んでしまい、起き上がろうとしても足を滑らせては転んでいる。
真底滑稽なその姿に、九十九は目だけで笑みを浮かべてみせる。首を鳴らしながら、悠々と若者の元へ近づく。その間に若者は許しを請うように喘ぎながら、地面を這っていた。
彼に手をかけようと太い腕を伸ばした、その時。
「そこまでだ、九十九 鯨」
九十九が顔を上げたその先には、のぼりくる朝日を背に立つ男が居た。見た目からして二十代だが、その体つきは常人のそれではなかった。
男は上半身だけ動きやすい銀の戦闘用スーツに身を包み、下には不釣り合いなジーパンを履いていた。
「この脱獄で何度目だ…?言っておくが、殺害許可は出てるんだぞ?」
「現れましたか。ま、どうせ邪魔しにくると思っていましたよ」
凶暴な体型に似合わぬ丁寧な口調が、ガスマスクを経由してくぐもった声で夜明け頃の街に響く。
「これが仕事なんでな」
男はスーツの袖を体にあわせるように引っ張ってから、深呼吸を一つ。
「STORM日本支部第一部隊隊長、“シャドウフェイス”。正義の名の下に、お前を裁かせてもらう」