複雑・ファジー小説

Re: STORM[オリキャラ募集中] ( No.38 )
日時: 2014/11/18 22:59
名前: ブラッドオレンジ (ID: LTdV0xGg)

鈴音が一歩後ろに下がると、それと入れ替わるように誠が前へ出た。
飛び降り防止用の柵を越え、一歩でも踏み外してしまえば大通りへと真っ逆さまな事など気にもせず、誠はビルの縁に立つ。
「それじゃいくよ、姉さん」
誠はその体全体で十字を作るように両手を広げた。
みるみると彼の両腕が、みるみると大きな翼へと変形していく。まるで粘土細工の製造過程を早送りで見ているかの様な印象を受ける。鈴音は見慣れているのか、それには動じない。
これこそ誠の能力である。「能力」といっても彼は『サイキック』だけでなく『ワイルド』の属性も兼ねている。
彼は自らの遺伝子情報や体の構造を操り、その姿を変える事ができる。ただし、下手に遺伝子を弄くると身の破壊に繋がりかねないため既存の生き物をまねる事しかできないのだ。
それでも十分なほどに、彼は人間を超越していた。しかもそれが人間によって作られた物だというのだから驚きだ。
翼を広げた誠に、鈴音はそっと後ろから首元に手を回す。
「あれ?あんた、また背ぇ伸びた?」
「まあね」
誠は得意げに笑みを浮かべると、コンクリートの地面を蹴り、宙へと身を投げた。

腕を翼にして飛ぶのは、誠にとって初めてではないが、人を乗せて飛ぶのは実戦では初めてだ。
(やはり、少し緊張するな)
首元に鈴音の体温を感じるたびに、一つの命を背負っているプレッシャーが襲いかかる。それが敬愛してやまない姉の命ならば尚更だ。
だが、取り乱しては失敗してしまう。下手をすると、地面に脳漿をぶちまける事になるが、それは勘弁だ。
はじめは少しゆっくり降下しながら、次第に翼を使って勢い良く上昇していく。目指すは最上階。
逆風を突き破りながら進むたび、怯えがなくなっていく。自分は鳥だと錯覚させられるほどの気持ちよさだった。
そんな誠の背中で、鈴音は少し寒そうにしていた。無事に帰れたらスーツに防風機能も付けて貰わねばと、鈴音が関係のない事を考えていたとき、二人は最上階へと着いたのだった。