複雑・ファジー小説
- Re: STORM[オリキャラ募集中] ( No.45 )
- 日時: 2014/11/21 23:59
- 名前: ブラッドオレンジ (ID: LTdV0xGg)
藍原 鈴音と矢島 啓司が親友の間柄だったのはもう昔の事である。
元は親同士が仲が良かった事もあり、近所の公園でよく遊んでいた。その時は親の事情など知らず、無邪気に子供らしく振る舞っているだけだった。
そんなある日。ちょうど彼らが十歳の誕生日を迎える頃——鈴音は、母親の所属する組織の実験台とされ今の超人的なパワーを手に入れた、まさにその頃。
矢島 啓司の家族は、崩壊寸前だった。
母親は事故で死に、父親は酒に明け暮れる日々。何より酷かったのは、たまに家へとやってくる叔父だ。
これがまた父親以上のクズで、来ては金をせびっては、それを断ると暴力をふるう。しかも暴力の行き先は、決まって啓司だった。
啓司は子供ながらに自分の家を地獄だと思っていた。学校にも行かなくなり、彼は破滅の道に片足を突っ込んでいた。
そんな彼を救ったのが当時のクライシスの幹部の女だった。彼女は啓司の母親の友人であり、啓司の噂を聞いて可哀想に思い、とうとう彼を誘拐したのだ。
啓司はひとまず救われた。
自分がたどり着く先が、いずれにせよ破滅の道だと知らず。
それから二人は幾度となく戦ってきた。望ましくない対立ではあったが、互いに強い信念があるがゆえ負けられなかった。
「ったく、今度こそ本気で殺すよ」
「前もそんな事言ってたのは誰だっけ?」
鈴音は小さく舌打ちをし、日本刀『五十嵐』の柄を両手でぎゅっと握りしめた。菱形の鍔から伸びる刀身には、真剣そのものと言った彼女の表情が写し出される。
にらみ合いが数秒続き、何の合図もなく二人は同時に走り出した。
鈴音の振るう刀を、啓司は弓本体で受け止め、押し返す。大きな隙ができた鈴音の胴体に一発蹴りを放ったが、鈴音は少し後ろに押されるだけで、ダメージは受けていないようだ。
「うらあああああぁぁぁ!」
鈴音は速く、しなやかな動きで啓司に斬り掛かる。啓司もそれを避けつつ背中の矢筒から一本矢を抜くと、それを構えた。
「!」
放たれた矢は鈴音を狙いまっすぐに飛んでいくが、手前で刀に弾かれてしまう。
啓司もそれを読んでいたのか、すぐにも第二の矢を用意し、鈴音の攻撃を避けるべく後方に跳びながらそれを放つ。
鈴音はその矢を弾こうと刀を構える。だが、直前まで普通に飛んでいた矢は、急に真ん中から二つに裂け、クワガタの顎よろしく挟み込むように迫ってきた。
いくら矢が来ようと、鈴音には跳ね返せる自信があったが、その変則的な動きには一瞬だが気を取られた。
しかし、矢は鈴音の体は狙わず、その背後へと回り込んでいた。。
「なっ!?」
分割した矢の間には細く強靭なワイヤーが通されており、端の二つが交差する事により鈴音の体が縛られる。さらに矢は鈴音の周りを周回し、もっと強く縛り付けていく。
「くっ、なにこれっ!」
「新開発の捕獲用の矢だよ。あんまり動かない方がいい、ワイヤーがさらに食い込むからね」
余裕の現れともとれる忠告を鈴音は侮蔑と見なし、それに対する怒りと悔しさで冷静さを失うばかりだった。