複雑・ファジー小説

Re: STORM[オリキャラ募集中] ( No.47 )
日時: 2014/11/23 23:17
名前: ブラッドオレンジ (ID: LTdV0xGg)

「はい、あんたの負け」
自身の脇腹から顔を出す刃が、そう勝ち誇ってるように啓司には思えた。
実際はその台詞は背後に立つ鈴音が放ったものであるが、混乱する啓司の頭はまともにそれを処理できない。
「んなっ…」
「油断も隙もありすぎよ。私の愛刀があの程度の針金を切り刻めないとでも?」
ゆっくりと刃を抜きながら、鈴音は我が子の自慢話でもするかのように語る。

数秒前まで鈴音は縛られていて、食い込むワイヤーに苦戦していた。
ワイヤーの強度も確かなものだが、鈴音がそこから抜け出せなかった理由は冷静さを欠き、激昂していたことによる。
怒りにまかせ身を動かしてしまったことで、鈴音を縛るワイヤーはさらに食い込みを強くした。
しかし、逆に言えば落ち着きを取り戻し無駄なあがきをしなければ、それ以上は強くならない。
誠は、その様子を見てどうにかして鈴音を落ち着かしてしまえば背後からの奇襲をかけられると思った。
だから、鈴音が冷静になり、ワイヤーから抜け出すまでの時間を稼いだのだ。
言葉は交わさない。長年付き合ってきた二人にとってはアイコンタクトで十分だった。

「ぐ、くそっ…!」
啓司は背後にいる鈴音に、せめてもの一発食らわそうと弓を振おうとするが、振り向くと同時に鈴音に足を掛けられ転んでしまう。
床に伏した啓司はなんとか立ち上がろうと腕で体を支えようとするが、そこを容赦なく鈴音が一突きする。
「ぐああっ!!」
「あんたはそこで大人しくしてなさい。幼なじみのよしみとして命は助けてあげる」
屈辱的な意趣返しを聞いたのを最後に、啓司は意識を失ってしまった。
「…なんでそうなっちゃったのよ、馬鹿」
寂しそうに呟く鈴音の目は、この時ばかりは普通の悩める若者の目をしていた。