複雑・ファジー小説

Re: [リク受け付け中]STORM[感謝!参照1000突破] ( No.80 )
日時: 2014/12/14 01:42
名前: ブラッドオレンジ (ID: gE35uJOs)

「道郎、待っていたわ…」
老人の隣に立つ露出の高い衣装を着た女が道郎に向けて恍惚とした表情を向ける。
キリングクイーンの名で知られているが、その本名は誰も知らず、身内からもNOVAとだけ呼ばれている。
それに対し道郎は、えも言われぬ嫌悪感を覚え、軽く舌打ちをする。
すぐにでも勝負を仕掛けたいところだったが、しかし人質を取られている。迂闊に動けば人質全員を粉微塵にされるかもしれない。
それくらいは散歩をするのと同じくらい気楽な感覚でやってのける連中なのだ。
「ま、下がりなさいNOVA君」
老人がノヴァをたしなめるように腕で制する。
「いやぁ、本日はわざわざ遠いところからご足労いただきまして、誠に感謝いたしますぞ。私の名前は蕎川ともうします」
「前振りはどうでもいい」

ついに道郎はその言葉を遮って、銃を蕎川へ向けた。
それに反応し、捕食者ことレーヴェンツ・ゼルマ・トロイが銃を向けてくる。
こちらも正体がつかめていない、STORMにとって厄介な相手である。
右目以外をゴーストを模したバラクラバで隠していて、声も変声機で変えているので、年齢・性別共に不明である。
「さっさと人質を解放してもらおう」
レーヴェンツとにらみ合いながら、言葉は蕎川に向けて放つ。
「そう急がずに…、慌てずに…。人質はもちろん解放いたしましょう」
「何?」
「ですが、タダでとはいきませんぞ」
蕎川の顔が、先ほどまでとは違う、計算高い狐の様なあくどい表情へと変化した。
「私たちも、面白半分でこんな事をやっているわけではありません。貴方たちを負かしにきたのです」
「言ってる事がよくわからんですねー」
横から加賀美がヤジを飛ばす。どうやらこの状況を楽しんでいるらしい。
「ですから、降伏しなさいと言っているのです。貴方たちは今後一切、私たちクライシスに関与せず、全面的な負けを認めよと、言っているのです」
「つまりは、そこにいる数十人の命の代わりに、世界を諦めろと?」
「まぁ、そういう事になりますな」

沈黙がその場を支配する。
どうにもクライシスは正気ではないようだ。
だが、何かがおかしい。本当にそんな幼稚な要求をする事だけが、今回の目的だったのか?
道郎は疑問に思いつつ、蕎川との対話を続けた。
「そんな条件を呑むとでも?」
「えぇ」
「…」
道郎は蕎川たちの後ろで、体を震わせ、助けを今か今かと待っている人質たちに視線を向けた。
彼らは、ただの平和な世界に暮らす人間だ。
「…残念だが、STORMは命ではなく平和を守る組織だ。関係ない」
「なっ、結城隊長!!」
反応したのは天だった。彼女は顔を青くして何か言いたそうにこちらを向いた。
だが、道郎が放つ覇気に圧倒され、すぐに言葉を発する事が出来なかった。
「では、彼らの死をお望みですか」
畳み掛ける様な口調で、蕎川が道郎に尋ねる。
「いや」
道郎は小さく笑った。おそらく、その場にいた全員が初めて目にする笑顔だ。
「お前らの死がお望みだ」