複雑・ファジー小説

Re: この世界の為に (1−1) 出会い ( No.1 )
日時: 2014/11/22 23:08
名前: クエン酸Na (ID: 6Bgu9cRk)

  1、森

 「さぁて、どうしようか・・・。」
青年は大きくため息をして、その場を立ち去った。
青年は長剣を背に、月の光の届かない暗い道へと入っていくようだ。
その青年がいなくなった夜の街では、必死に店の呼び込みをする店員の
声が虚しく響いていた。
店員が諦めて中に入ろうとした時、サイズの合わない大きめなローブを羽織っている七歳と少ししかたっていないような幼い少女が店に立ち寄った。
「すみません、店はまだ開いてますか?」
少女の質問に店員は愛想笑いをして答えた。
「開いているよ。お客さん、何をお求めだい?」
「葡萄酒を一瓶金貨二枚で買います。」
「へ?」
葡萄酒の瓶を取り、少女は金貨を二枚置いた。
だが、葡萄酒の値札には銀貨二枚と書いてある。慌てて店員は少女を
呼び止めた。
「ちょっと、お客さん!!銀貨ですよ!金貨じゃありませんよ!」
けれど少女は振り向くと、にっこり笑って
「大丈夫です。」
と言いまた歩き出した。
「お客さん、あの!!」
大丈夫と言われても、金貨はせめて一枚返そうと呼び止めた。
少女は今度は振り向かずに言った。
「ハルツです。お客さん、は止めてください・・・。」
「あ、じゃあハルツさん!!」
今度こそ、と名前を叫ぶ店員を無視して、ハルツは路地に入って
しまった。

 ハルツはゴミ箱の横で腰を下ろした。そして瓶を開けると、葡萄酒
を一口飲んだ。濃厚で、甘味酸味が丁度良く、後味はほろ苦くすっきり
していて・・・。ハルツはあまりの美味しさにため息をついた。
少しして立ち上がったハルツは、
「時計、腕。」
とつぶやいた。すると腕に何やら輝く針と糸でできた、腕時計が
現れた。時計の針は、午前二時をさしていた。
「今日は宿か。安いのがあればいいのだけれど。」
時計が消えるとハルツは立ち上がり、宿探しに向かった。
路地を出て、かけだした。
どんっっ!!
ハルツは前をあまり見ていなかったので、何かにぶつかった。
その反動で後方にふらつくと、ぶつかったものの正体が分かった。
長剣を背に負った青年が不満そうにこちらを見ていた。

続く。