複雑・ファジー小説

Re: この世界の為に (1−2) 夢を見た朝 ( No.2 )
日時: 2015/06/03 20:33
名前: クエン酸Na (ID: rS2QK8cL)

 ハッとして
「すみません、私の前方不注意です。」
と言うと、青年はにぃっと笑みを浮かべた。青年は炎のような赤色の髪と瞳を持っていた。身長差があるから、彼はハルツを見下ろすようにして言う。
「夜の街を一人で歩くのか?嬢ちゃん、一人じゃ危険だよ??」
初対面なのに馴れ馴れしく、そして失礼なことに青年はハルツの頭をポンポン叩くとまたにぃっとして・・・。
「は?」
ハルツをおぶった。
突然の出来事に混乱する。
(この青年は、誰なんだろうか?)
一瞬、人攫いという可能性を考えて不安になった。だが、青年は急ぐ様子もなくゆっくりと歩いていくだけだった。

 少しするとかなり安そう(ボロ)な宿に着いた。青年はハルツを優しく下ろすと、怪しく微笑み
「子供はもう、おネンネの時間だぜ?」
なんて言うと、部屋の鍵を渡してきた。
「隣で寝るからな、朝になったら来いよ?」
青年は小さく手を振りながら隣の部屋に入っていった。

 部屋に入った青年は、鍵を閉めてカーテンを閉めてベッドにゴロンと寝転んだ。
「子供のくせしてこんな時間にいるとはね。怪しくないか?」
そして、誰に問いかけるといったわけでもないが、
「これだから夜は飽きなくていいぜ。」
とつぶやきゆっくり目を閉じた。青年はそのまま夢の世界へ一直線に向かうこととなった。


  「ザード、ザード?」
 —そうだ、俺はザードだ。
 「ザード、ザード!!」
 —なんだ、早く言えよ。
 風が吹いて、辺りの闇が流された。そこに広がるのは、
 高い山の上の景色。
 「ね、ザード。」
 —何を言いたいんだ。
 「朝に」
 —朝?


   「朝になりましたよおおおおっ!!」
青年、ザードはハルツの声で目を覚ました。慌ててつぶやく。
「時計、腕。」
腕に例の時計・・・の赤いのが現れた。だが、それが指している時間は朝の四時。ザードの通常起床時間の二時間前だった。
いつの間にか入っていたハルツはポカーンとするザードを揺さぶった。
ザードはムッとして叫んだ。
「るっせぇんだよ、チビ!!!!!!早すぎだ!」
ガバッと起き上がりベッドから飛び降りた。伸びてからあくびをして気分を入れ替えた。
「えっとだな、俺はザード。はい。」
はい。ザードにこたえる人はいなかった。
「はい。」
もう一度言っても、ハルツは無反応だ。
「お前、名前は?」
耐えかねたザードが質問する。するとハルツはニコッと笑って名乗る。
「ああ、私ですか。私はハルツです。ちなみにチビじゃありませんので。」
怒っているように、ザードには見えた。その時見えたハルツの目は、鳥肌が立つほど真っ黒で寒気がした。ここでは珍しい。
(こいつ、何者だ?)
そんなザードをスルーして、ハルツは言った。
「ザードさん、私には仲間がいません。・・・ので、あなたを仲間にしますね。」
あまりの唐突さに絶句した。
ハルツは問答無用にザードを連れて行った。・・・森に。

続く。