複雑・ファジー小説
- Re: この世界の為に (1−4) 誘い ( No.5 )
- 日時: 2014/11/22 23:07
- 名前: クエン酸Na (ID: 6Bgu9cRk)
先程までの眠気は吹っ飛んでいた。
———な、な、何を言い出すんだいきなりぃ!?
ザードは落ち着こうと深呼吸をしてから少し早口で叫んだ。
「なんでだよ、意味わかんねー!」
バン、とテーブルを叩く。すると置かれていた黄色っぽい液体の入ったコップが倒れ、中身がぶちまけられた。混乱し、ワタワタするザードと相反して、ハルツは冷静に言う。その表情は嫌悪に満ちていた。
「あぁ、もう・・・。なんて汚い・・・。」
ハルツは大げさに首を振り、雑巾を‘呼んだ’。そしてその雑巾で濡れたテーブルと床を拭き始めた。——やっと落ち着いて冷静になったザードは話を整理した。
———ハルツは俺を仲間にしたくて、一緒に旅に出るつもりか。目的は……さっぱりわかんねえけど。
ザードはハルツをチラリと見た。
———雑巾に、ありゃ名前か?
雑巾を見た瞬間から気になっていた。薄い桃色の雑巾に、黄緑のインクで『エリュ・シー・ハルツ・セイン』なんてご丁寧に名前を書かれていらっしゃった。よくよく見れば、魔道書にも、ローブにも、羽ペンにも、薬草瓶の一つ一つにも…名前が入っていたのだった。
「エリュ・シー・ハルツ・セイン、っつー名前なんだな。ぷっ・・・!!」
・・・思わず笑ってしまった。
「何かおかしい事でも?」
「名前、イマドキ書く奴いたんだなーーーって思って、いや、馬鹿にしてんじゃなくて!!」
ソフトに睨んでくるハルツは、ソファから突然立ち上がった。そして閃いたようにぽん、と手を叩く。
「ああ!!自己紹介を忘れていた!!旅に誘うにも順番があったな。・・・・・失礼した。」
ハルツは自分の事を話した。ついでに旅の目的も聞いたが、ハルツ自身、よくわかっていないらしい。・・・とにかくわかったことは、ハルツが七歳で二年前に聖人に選ばれ、魔の山マグスタに行かなければならない事だ。目的地は、ザードも同じだった。
・・・それにしても。
ザードはハルツをまじまじと見た。
金髪で漆黒の瞳を持ち、背には身の丈ほどの杖を背負っている。顔立ちは整っており、小ぶりの口が愛らしい。将来に期待できそうだ。
、とその時、突然怒鳴られた。
「何見てるんですか、このロリコン!!目つきがいやらしいですよ?」
———将来には期待したけど、今は、なぁ・・・。
「・・・はぁ!?ロリコン!!??」
とんだ勘違いである。ザードはロリコンじゃなく、ただの女好きなのに。二人はギャーギャー言い争った。
———しばらくして———
「わかったわかった、わかったから!!!!大人しくしてろよ、子守はキツいからな!」
「私は貴方が思うほど子供じゃありませんよ!!」
二人は結局旅に出ると決めたようで、言い合いながらも荷物をまとめ、準備に取り掛かっていた。ずっとこんな感じだったらしく、もうすぐ荷物はまとまりそうだ。
———あー、何だこいつ。先が思いやられる。
ザードは本気でそう思った。
続く。