複雑・ファジー小説

Re: world この世界の為に (1−6) 道しるべ ( No.8 )
日時: 2015/06/07 18:21
名前: クエン酸Na (ID: AwgGnLCM)

 
 ハルツが背負うリュック・・その色を辿って、ザードは森を進む。

 「・・・・ッテェ!!」

注意力が足りていなかった。
腕を見ると、刺の生えた植物で切ってしまっていた。

声を聞いたからか、ハルツが振り返った。

……そして、腕の、本当に小さな傷を見て青ざめた。

 「あ、あ…すまない…・・。ザードは、ここは初めてなのだったのだな…。」


初めてがどうした、と思った。


———こんな小さい傷、最初は痛いだろうが別に……。


 「…何で青ざめてんの?
      こんな傷、舐めときゃ治るぜ??」

 「わからない。…たまに、怖くなるんだ。血の、紅が。」

ハルツは答えながらも笑った。ぎこちない笑みだった。


ザードが返答に困って固まっていると、ハルツの口から美しい旋律が流れた。

 『道を示せ、空の香りよ。道を示せ、影の足跡———』

歌うように、精霊に語りかける。
—これが、この世界の魔法。


だが、驚くべきはその術の位だった。



———最上位の、道しるべの魔術・・・?


そう。ハルツが唱えた、使った魔術は道しるべの中で最も高位な足跡を出現させるものだったのだ。

 「一番安全な道です。そして、アパトギアまで一番近い・・・。」

ハルツは一度振り返ると地面から数センチ浮いた所にあり目立つ、足跡をたどっていった。

ザードはますます気になった。この少女の正体が。笑顔の中で何を思っているのかが。

複雑に獣道を進んでいくと、二人はすぐに街・・・アパトギアに着いた。

・・・二度と出られないはずの魔の森、迷路の森をわずか七分で切り抜けたのだった。



街に入ろうとしたザードは、ハルツに止められた。

 「止まって。」

何事かと振り返るとハルツはフードをかぶっていた。
よくよく考えれば、ハルツのように黒く澄み切った瞳は今まで見たことがなかった。
珍しいと、子供でも人攫いの標的になる。

だから隠しているのだろう。

・・・と思ったら。


ハルツは慣れた手つきで透明の魔法を使った。


———せっかくフードかぶったのにぃ!?

ハルツとザードは透明になり、ほかの人に見えなくなった。

———こいつ、これじゃあずっと一人だったんじゃねえか・・・?
     助けも、求めることができない・・・


少し悲しい気持ちになりながら、ザードは自分にしか見ることのできない少女を追う…。

続く。