複雑・ファジー小説
- Re: 異能者の日常と襲撃【11/18up!】オリキャラ募集予定。 ( No.2 )
- 日時: 2014/11/18 22:00
- 名前: るみね (ID: 8hBaEaJR)
- 参照: すいません。↑は編集出来なくて途中で切れてます。
【出会い 新人刑事と下っ端社員】
AM_1:54
煉瓦作りの洒落た屋敷が建ち並ぶ【帝都】の一等地、壱区。
【帝都】の中でも貴族や有力者が住む地域。普段ならば住民は寝静まっているはずの時間にも関わらず、その日は異様な空気が流れていた。
壱区の中でもひときわ目を引く屋敷の広間には異様な数の制服姿の人間が集まっていた。
多くが黒い詰め襟にエンブレムが刺繍した制服を着込んだ軍警の人間達。
彼らが取り囲むようにして守っているのは広間の中央に置かれたガラスケースの中身、ライトの光をあびて燦然と輝くダイアモンドやルビーで飾られた首飾りだった。
そんな異様な広間と隣接する応接室には数人の軍警の人間と整った身なりの男女が向かい合うように座っていた。
「なんとしても守るのよ!ワタクシの大切なモノなんですからねっ!」
そう高飛車に懇願するのはふくよかな体躯の女性で、雰囲気や着ている衣服の質からもこの屋敷の住人である事は一目で分かった。
隣に座っている口ひげを蓄えた厳格そうな男性も何も言わないが失敗は許さないとばかりに前に座る軍警の三人を見据えていた。
「はっ、【ゴースト】の確保も含め全力で警備にあたります!」
その後も女性は口うるさく相手に文句を付けていたがそれらを流すように軍警の人間は部屋を出た。
「大貫さん、あんな対応で良いんですか。仮にも第壱区の貴族様ですよ」
「あんなのいちいちへこへこやってられねぇよ」
部屋を出て先頭を歩く大貫にそう聞いて返ってきた答えに、詩音は深くため息をついた。
「定年近い人はいいですねぇ。そういうとこ気楽で。俺はまだまだそういうお付き合い長いですから波風たてたくないんですけど…………ふあぁ」
そういいつつも詩音は抑えようともせずに大きくあくびをした。
「相沢先輩も大貫警部も緊張感足りないんじゃないですか」
二人に言ったのは小柄な少女だ。セミロングの黒髪に深い赤みを帯びた瞳を向け、小走りでついている。今年捜査課に配属されたばかりの新人だ。
「帯刀は真面目だな……」
詩音はぼそっといいつつまたあくびをかみ殺す。
「ったく、上も最後に厄介な仕事回してくれたもんだよ」
【ゴースト】__それが今【帝都】を騒がせてる人間の名前だった。
まるでハロウィンのジャック・オ・ランタンのような目のくり抜かれた巨大なカボチャを被り黒いスーツにマント姿というふざけた格好で現れる奴は、博物館や美術館、果ては貴族の屋敷にいたるまであらゆる場所に侵入しては盗みを働いていた。
その被害金額は日増しに増える一方で、【軍警】も一向に犯人を捕まえられていなかった。
理由はただ一つ。
、、、、、、、、、、、、
彼は実際にゴーストなのだ。
何度となく捜査員は【ゴースト】を追いつめ、逮捕まで後一歩というところまで追いつめてきた。しかし、【ゴースト】は捜査員に捕まる前に跡形もなく消え失せるのだ。
肝心の侵入経路に関してもどんなに厳重な警備を敷いてもまるで壁をすり抜けるように現れる。
それ故にいつの間にやら噂が巡り、彼は【ゴースト】と呼ばれるようになった。
__そして現在、【ゴースト】によって届けられた予告状によって再び軍警は動き出し、その上官として任命されたのが大貫というわけだ。
「ったく、巫山戯た野郎だ」
数少ない【ゴースト】の写真を見た大貫は舌打ちをしながら言った。
「はぁ…………。上も他のお偉い様も失敗で貴族の皆様のご機嫌損ねるのを恐れて捜査やりたがらないし、そのせいで大貫さんがやらされて、ついでに俺まで……」
悲観する詩音にかまわず大貫はスーツのポケットから煙草を取り出した。
「失敗しなきゃ良いだけの話だろ」
「簡単に言いますね」
詩音は煙に隠れた大貫を恨めし気に見た。
「でも、これだけ包囲してるんだし……」
広間に入って周囲を警戒する捜査員の姿を見て新人の少女は呟いた。
しかし、二人は微妙な反応だった。
「なんですかその反応……」
「……帯刀、上がやりたがらない理由って何だと思う?」
「え、貴族の人がって訳じゃ」
「違うな」
新人の言葉に大貫は煙を吐きながら否定した。
「え、じゃあ……」
「相手が”異能者”だからさ」
”異能者”__少数の人間が有する常識でははかる事の出来ない能力を持った人間たち。
【帝都】全ての人口のなかで二割程。その能力の種類も威力も様々で【軍警】にも”異能者”は多数所属している。
そして、中にはその能力を利用して犯罪に手を染める者も後を立たず、治安を守る【軍警】にとっては特に厄介な存在だ。
黙った少女を気にせず大貫は腕時計の時間を確かめた。
丁度秒針が十二を指し、屋敷の時計の鐘が二回鳴り響いた。
「さって、時間だ。奴さんどこから来るかな」
大貫の言葉が終わると同時にガチャンと言うガラスの割れる派手な音が響いた。
「!?」
「ッ!!」
今まで、気配すらなかった。
捜査員達が取り囲む中心に唐突に現れたカボチャ頭の男はまるであざ笑うような顔で首飾りを 手に優雅に一礼してみせた。
捜査員が混乱したのは一瞬だった。
「ゴーストだぁあぁぁ!!」
一人の言葉とともに捜査員たちの警棒が【ゴースト】を狙う。が、【ゴースト】はまるで警棒など存在しないように連続する攻撃をすり抜けると驚異的な跳躍力て広間の上の窓ガラスを突き破った。
【ゴースト】に気づいた屋敷の外に配備された捜査官が俄に騒ぎ立つが大貫と詩音は暢気な者で一緒にいる少女は焦った。
「ちょっと、警部!なに暢気に……!」
「まぁ、大丈夫だ」
「大丈夫って、煙草吸ってる暇なんてないですよ!」
そう言うと少女は【ゴースト】を追って飛び出した。
「新人は元気だなぁ」
感心して言う詩音に呆れつつも大貫は独り言のように愚痴った。
「ったく、安くなかったぞ。……あいつら、下手に出たら強気になりやがって」
【ゴースト】はいつものように華麗な身のこなしで屋敷の屋根を跳ねるように移動していた。
軍警の捜査員はサーチライトで【ゴースト】の姿を追い、銃弾が狙うが全て【ゴースト】に当たる事はない。
「ハッ!ハッ!ハァッ!そんなことではまた取り逃がしちゃいますよぉ」
癇に障る台詞に軍警達の怒号が大きくなるが【ゴースト】は余裕で手に持った首飾りをふってみせたのだが、
唐突に首筋の毛が逆立った。
「ッ!!!?」
背後を振り返るのと眼前をナイフが通り過ぎるのが同時だった。
「あらら、外れたか」
纏う殺気にそぐわない爽やかな声に困惑しつつも【ゴースト】は同じように目の前に立っている男を見た。
黒髪黒目、中肉中背の優男といった風の男だ。屋根を歩いているというのに全くぶれずに歩いている。
「なに、あんた……」
そう言って【ゴースト】は目の前の男が軍警の制服を着ていない事に気づく。
「ん〜、君を捕まえろって言われた一介の探偵?」
「あっそ」
警戒しつつも【ゴースト】は眼前の男が大した武器を持っていないのを確認する。
「じゃあ、それは失敗だな」
しかし、その余裕の言葉はすぐに困惑となって顔に表れた。
__なんで
「生憎、ずるはなしだ」
ニヤッと笑って言う男に【ゴースト】の心の中で警戒信号が鳴り響いた。
____ヤバい
「あと」
思い出したように男は微笑んだ。
「探偵は一人とは限らない」
「え————
【ゴースト】の言葉は死角から飛んできた激しい衝撃によって断絶された。
気づけば屋根から身体が飛ばされ、別の一段低い屋根でバウンドすると庭園の庭木に落下し、ちょうど屋敷から走り出た少女の前に落下した。
「ヒッ!!」
突然目の前に降ってきた物体に悲鳴を上げた少女だが、その人物の頭に見覚えのあるカボチャ頭を確認して悲鳴を飲み込んだ。
「ご、【ゴースト】!!!」
なんで、逃げたはずのゴーストがここに
などと混乱する新人の前に再び軽い衝撃音がして今度は二人の男が着地していた。
一人は ちょっと目を引くような優男、もう一人は細身で背の高い 青年だ。
「ちょっと、桃矢くん。手加減してやりなよ」
【ゴースト】が気絶しているのを確認しながら男が言った。もう一人の男はそれを聞くとあからさまに不服そうな顔を見せた。
「取り押さえろって言ったの鷹人さんだよね」
「取り押さえろって言って殴り飛ばせと入ってないよ」
「”異能”使われて逃げられたくなかったんで」
「なら……」
「アナタたち!!!」
「「!?」」
言い合いを始めそうだった二人はそこで初めて少女の事に気づいたようだ。
そして、少女の持った小振りの刀が向けられているのを見て、すぐさま手を挙げた。
「ちょ、誤解です!俺たちは……」
「帯刀、刀をおろせ」
そう言ったのは遅れて来た大貫だ。後ろからついて来た詩音は二人を見て軽く会釈する。
「警部……」
「ったく、殺してネェだろうな」
「それは大丈夫です」
「殺しかけましたけどね」
「うっさい」
男の言葉に噛み付く青年に大貫は苦笑した。
「あの……」
「あぁ、悪いな。こいつらは俺が【ゴースト】を捕まえるので依頼した」
「依頼?」
疑問の言葉に青年が微笑んだ。
「俺たちは荒事専門の探偵事務所__【異能探偵社】 そこの冬月桃矢って言います。よろしく」
これが、探偵社の下っ端__冬月桃矢と軍警の新米__帯刀千鶴の出会いだった。
そして、
この出会いが【異能探偵社】の日常を変容させていく。